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月あかり

仲村渠




青い おほきい船にのつてゆかう。

ほんとうに痩せてしまつたぼくの肩

あたらしい紺飛白ばかり匂ひがたかいよ。

月あかりは胸から背なへぬけてしまつた

ほそながい影ひとつ ぼくのうしろへ映つてゐやしない。

たゞ青くつて

しづかな航海はほんとうにこころぼそい

楽隊ずきのペンギン鳥が氷の島に

月のしたに並んでゐたつて

陽気な唄も

銀笛ひとつ持ちあはしてはゐないのさ。

月あかりの向ふにみんなみんな消えていつた

弟のやつも 母も 友だちも消えていつた


船尾にうごくさびしい旗と。

旗のしたに立つた僕と。

たゞ青くつて

しづかな航海はほんとうにこころぼそい。






底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩※(ローマ数字1、1-13-21)」国書刊行会

   1991(平成3)年6月6日第1刷

入力:坂本真一

校正:良本典代

2017年8月25日作成

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