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不可能

L'IMPOSSIBLE

エミイル・※[#濁点付き片仮名ヱ、1-7-84]ルハアレン Emile Verhaeren

上田敏訳




人よ、がたいあの山がいかに高いとも、

 飛躍の念さへせつならば、

 恐れるなかれ不可能の、

 きん駿馬しゆんめをせめたてよ。


登れなほ高く、なほ遠く。たとひさかしらに

 なんぢが心、山腹さんぷく

 泉のそばを慕ふとも、

 よろこびはすべて飛躍である。


みちのなかばにとまる者は、やがて途に迷ふ。

 かつはくるしみかつ悶え

 あやまいかることあつて

 燃立つ心に命がある。


きのふの目標めあて、あすの日はみち障礙しやうげぞ、

 籠の戸いかに固いとも、

 思想はたえず相尅さうこく

 とはに盡きぬはその饑渇きかつ


變化あれよ、向上あれとは、この世の大法たいはふ

 不動の今がいかにして、

 現世げんぜはえを引き※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)はす

 だいコムパスの支點となる。


過ぎし世の智慧ちゑといふもの何のえきかある、

 授くるものは梭櫚しゆろの葉の

 あぶなげも無い勝利のみ。

 これを越えて飛べ、熱烈の夢。


いやしくも飛躍せば、たえず己に超越せよ。

 われとおのれに驚けよ、

 かしらはたしてこの熱に、

 堪へるか否かを問ふ勿れ。


不斷のよくのたえまない人の心を、

 がたい山の上から、ましぐらに、

 未來めがけて不可能の、

 きん駿馬しゆんめし上げる。






底本:「上田敏全訳詩集」岩波文庫、岩波書店

   1962(昭和37)年12月16日第1刷発行

   2010(平成22)年4月21日第38刷改版発行

初出:「朱欒 創刊号」

   1911(明治44)年11月

※「Les Forces tumultueuses」の「L'Impossible」の訳です。

※著者名の原綴り「※(アキュートアクセント付きE)mile Verhaeren」は、ファイル冒頭ではアクセント符号を略し、「Emile Verhaeren」としました。

入力:川山隆

校正:成宮佐知子

2012年11月2日作成

青空文庫作成ファイル:

このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。





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