わが
わが神々の忙しき足の中をわれは進みぬ。
あるは、ダマスコの里水 さやぐ山川 の音 に、
欲望さはなる若き心の言葉なり。
かくてわれ、相撲 の身を屈する如く、御前 にあり、
自らを敢 て弱しと思ふにあらず、他の更に我より強きが爲 ぞ。
君はわれを呼び召して、
嗚呼、神よ、若き人の心はいかに愛に滿ち、いかに汚辱と虚榮とを忌むかを知り給ふならむ。
さすがはわれも女の生みたる子なるか、そは此時 、理性も師説 も、すべての妄誕 も、
わが心の雄誥 に對 ひて、この幼兒 のさし伸べたる手に對 ひて、全く無力なればなり。
われを君が仇 と思 し給ふ勿 れ、われは君のいづこに在 すかを辨 へず、また見ず、また知らず、唯 この涙に暮 るゝ面 を君の方に向けたり。
われらを愛する者、人誰か愛せざらむ、わが心、救世主 を見て、躍り喜ぶ。諸 の信者たち來 れ、われらが爲に生れ出で給ふこの幼兒 を尊 び敬 はむ。
||さてもわれは今童兒 にあらず、生 の央 に在りて、事理分別を辨へ、
かくて君、われに置き給ひし心と音 とを元 に、
われはくさぐさの言葉を作り、説を工 み、わが胸の内に、異る聲々 を集めたるが、
今や長論議 もはたと止 みて、
われ唯 孤 となりぬ。君の御前 に出 でては、更に新らしきわが身の思 して、

われ、世に在りて何か爲 さむ、一帶の砂上に立ちて、眼 常に、あのうち重 なれる晶光七天 を眺むるのみ。
君、今ここにわが前に在 ます。われは、カルメル山 に孤雲を望む牧人の心となりて、君が御爲 にやをら美 しき一條 の歌を捧げむ、
時これ十二月寒 の土用に際して、萬物 の結目 は縮 まり竦 み、夜天 に星斗 闌干 たれど、
歡喜の心、逸散 にわが身を撞 きて、
今は昔、カヤパス、アンナ大司祭たり、ヘロデは、
ガリレヤに、弟ピリポ、イツリヤとトラコニチスとに、リサニヤスはアビレナに分封 の王 たりし世、荒野 のヨハネに御言葉 の降 りし時の如し。
われらの奏問 し奉る言葉と同じ言葉もてわれらにも、宣 らせ給ふわが神よ。
君は今もわが聲を輕しめ給はず、君が幼兒のいづれもの聲、または、君が婢女 マリヤの聲、
マリヤはその心の溢 れ湧きて、その謹 みを受け入れ給ひし嬉しさに叫びし其 聲と同じやうに嘉 し給ふ。
この長旅 のはてに、君がわが胸に達し給ひしか。わが身の内にある代々の人々よりこの我に至る迄 、一齊に呼ばはりて、君を祝福されたる者と仰ぎ奉る。
そも君が室 に入るや、エリザベエタは耳を傾け、
わが心、頌歌 を負ひて重く、御前 にむかふも苦しげなり。
宛も乳香 と炭火 とに充ちたる金の香爐 の重たげに、
鎖の長さに振上げられて、
次に降 り來るその跡は、
又、萬有のすぐれてめでたき事も空 にはあらず又かの虚 ろ蘆莖 の戰 ぎも空 ならず、裏海 の濱 アラルの麓 なる古塚 の上に坐して、
東方聖人は此聲 を聞きながら星を考へ、大 なる代の近づくを察したらずや。
されどわれは唯 、ふさはしき言葉を見出で、これを見出でたるのち、唯、わが心の言葉を吐出 で、
これを言出 でたるのち、命 を終 り、又これを言出でたるあとは、頭 を胸に俛 れて、宛 も老僧が聖祭 を行ひつゝ絶命する如くならむ。
君を他 にして、我に敬 ひ尊 ぶもの無からしめ、イシスにもオシリスにも、
又は「正義」「進歩」「眞理」或は「神性」「人道」「自然法則」また「藝術」にも「美」にも額 づかしめず、
元來世に在らざる物又は君在 さぬ爲 に生じたる空虚に存在を容 したまはず。
見よ、空舟 を刳 りて、殘る船板 をアポロオンに彫 り刻みし未開人の如く、
かの唯、辯 を辯ずる者どもは、形状言 の剩餘 をもて、實體もなき多くの怪物を造りつつ、
君が死者の神にあらず、生きたる人の神なるをわれは知れり。
われは幻影と傀儡 とを敬 せず、ディヤナも「義務」も「自由」も牛の姿のアピスも、
又はかの「天才」かの「英雄」或は大人 、超人 、すべて忌 はしき異形 のものを敬せむや。
死の中にありてわれ自由なる能 はざればなり。
われは眞に有る物の間に有りてこれをわが身に缺 く可 からざる物とするに努む。
われは何物をも凌駕 せむとはせず、唯 眞の人たるを欲す。
世上の假説 何ものぞ、われは唯 窓に出 でゝ、夜 を開き、眼にはかの一齊 に列 びたる數字となりて、
わが必然の一 といふ係數の後 に幾多の零 がつづく如き無數無限の星影を映さむのみ。
げに君は晝 の後 に偉大なる闇を與へ、夜天 の實在を示し給へど、
われ今ここに在る如く、まさしく晝もまた幾千萬の星となりて現はれ、
六千有餘の昴宿 となりては寫眞紙 の上に署名すること、
又ここにかしこに、世界の果 には創造の業 終る所、星雲あり、
「我は仕へず」といふ姿して、自 らの心を堅め得るものあらむや。
ここに死が生 に克つにあらず、生 が死を破 するものにして、死は到底生 にはむかふ力なし。
君は諸 の力を其 座より退け給ひ、火の中の焔 さへも從へ給ふ。
わが眼には星辰 雲集し又無限 夜天 は生動 す。
われは總額中 の一數字の如く、この身脱する能 はず、
われに課せられたる業 は唯 、永遠の間 に行 ふ可 し。
われはわが務を知る、神われに信を置き給ふ如く、われまた主 を信ず。
君が御言葉 をこそわれは頼め、豈 證書 の用あらむや。
さればこそ、われら、夢の覇絆 を破りて、諸 の偶像を足蹴 にし、十字架 をもちて、十字架 を抱かむかな。
それ、死の像 はやがて死を來 たし、生の姿は