むづがゆき
額を赤めをさな
兒は
それとなき夢の白き
巣立をねがふ時、
爪しろがねに指細きふたりの姉は
たをやかに寢臺近く歩みよる。
青天の光、咲き亂れたる花に
注ぐ
明け放ちたる窓のそばに
幼兒を
抱き行きて
露ふりかゝるその髮の毛のなかに
美しく、恐ろしく又心
迷はする指は動きぬ。
ふたりの息のこわごわに出入るをきけば
花の如く、草木の如きかをりして、
又
折節は
喘ぐ
聲。口に
出づるを
嚥み込みし
片唾の
音か、
接吻の熱き
願か。
香よき
寂寞のなか、
二人の黒き
睫は
繁叩き
えれきの通ふ細指はうつらうつらと、
貴なる爪の下にこそぷつと
虱をつぶしけれ。
時しもあれや、
徒然の
醉は
稚き心に浮び、
狂ほしきハルモニカの
吐息の如く
姉が靜かになづさはる
其愛撫に
小休なく
湧き
出でゝまた消えはつるせつなき
思。
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