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サバトの門立

DEPART POUR LE SABBAT

ルイ・ベルトラン Louis Bertrand

上田敏訳




女は夜半に起きて燭を點じ泥を取つて身に塗り、さて呪文を唱ふれば、身たちどころにサバトの集會に向ふ。

ジァン・ボダン「方士鬼にかるる事」


 あつものを吸ふもの十二人、各の手にある匙は亡者の前腕の骨である。


 炭火は赤く爐に燃え、燭は煙つてだらだらと蝋を流し、皿の中からは春さきのどぶのやうなにほひが立つ。


 マリバスが笑つたり、泣いたりすると、やれ※(濁点付き片仮名ヰ、1-7-83)オロンの三筋の絲を弓でくやうなうなりが聞える。


 然し一人の兵隊はそら恐しい事だが、机の上に蝋燭を立てて魔法の書を開け廣げた。本の上には火に迷つて來た蟲が跳ねてる。


 此蟲が飛び跳ねてゐる最中、毛むくじやらのふくれた腹の處から、蜘蛛が出て來て、幻術の書のへりを這つて行く。


 而も此時方士も魔女も既に煙突から飛び出してゐたのだ。或は箒木、或は火ばさみに跨り、そしてマリバスは揚鍋あげなべに乘つて出ていつた。






底本:「上田敏全訳詩集」岩波文庫、岩波書店

   1962(昭和37)年12月16日第1刷発行

   2010(平成22)年4月21日第38刷改版発行

初出:「アルス 二号」

   1915(大正4)年5月

※原題「D※(アキュートアクセント付きE)PART POUR LE SABBAT」は、ファイル冒頭ではアクセント符号を略し、「DEPART POUR LE SABBAT」としました。

入力:川山隆

校正:岡村和彦

2012年11月2日作成

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