こはいかに、紛ふ無き親友ジァン・ガスパル・ドビュロオ、綱渡の一座中世に隱れ無き道化ものゝ蒼ざめ
窶れたる姿にあらずや。
惡戲と温順とを浮べたる名状し難き顏色にてこなたを見詰めたり。
テオフィル・ゴオティエ||「オニユウリユス」
月夜の晩に
ピエロオどのよ、
文がやりたい
その筆かしやれ、
明が消えて
見えなくなつた。
後生だから早く
この戸をおあけ。 俗謠
唱歌の長が弓を當てて胡弓の
唸を
試めしてみると、樂器は忽ち
哄笑や
顫音のおどけた鳴動をして答へた。伊太利亞狂言がよく
消化れずに腹の中にあるのだらう。
まづ始には
女目付のバルバラが
呟くやう、あのピエロオの拔作め、氣の
利かないのも程がある、カサンドル樣の
假髮の箱を
落して、
白粉を
皆播いて了つたぞ。
そこでカサンドルは大事さうに
假髮をお拾ひなさる、アルルカンは粗忽者の尻をいやといふほど蹴飛すと、コロムビイヌは笑ひこけて涙を
拭く、ピエロオは厚化粧の
苦笑で耳までも口を
開いた。
然し間もなく月夜になると、
明を消したアルルカンは友達のピエロオに懇願して、ちよいと戸をあけて、
火をつけさせてくれろといふ、さては
親仁の金箱ぐるみ、娘をつれて驅落するのか。
琴屋の畜生、ヨブ・ハンスめ、こんな絲を賣り居つたなと唱歌の長は小言をいひつつ、
埃だらけの箱の内へ
埃だらけの胡弓を仕舞つた。絲は切れたのである。