人生は一つの病院である。そこに居る患者はみんな寝台を換へようと夢中になつてゐる。或るものはどうせ苦しむにしても、せめて煖爐の側でと思つてゐる。また或るものは窓際へ行けばきつとよくなると信じてゐる。
私はどこか他の処へ行つたらいつも幸福でゐられさうな気がする。この転居の問題こそ、私が年中自分の魂と談し合つて居る問題の一つなのである。
「ねえ、私の魂さん、可哀さうな、かじかんだ魂さん、リスボンに住んだらどうだと思ふね? あそこはきつと暖かいからお前は蜥蜴みたやうに元気になるよ。あの町は
私の魂は答へない。
「お前は活動してゐるものを見ながら静かにしてゐるのが好きなんだから、オランダへ||あの幸福な国へ行つて住まうとは思はないかい。画堂にある絵で見てよくほめてゐたあの国へ行つたら、きつと気が晴々するよ。ロツテルダムはどうだね。何しろお前は
私の魂はやつぱり黙つてゐる。
「バタビヤの方がもつと気に入るかも知れない。その上あそこには熱帯の美と結婚したヨーロツパの美があるよ。」
一
「ぢあお前は
遂に、突然私の魂は口を切つた。そして賢くもかう叫んだ、「どこでもいゝわ! 此の世の外なら!」