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PANTOMIME

富永太郎




うす暗い椽側の端で、

琥珀色した女の瞳が

光つた||夫に叛いた。


もうむかふへ向いた、

庭の樹立と遊んでゐる||

あの狡猾なまなざしは。


とり残された共犯者が

清潔な触手で追ひかける。

だがみんな滑つてしまつた、

女の冷たい角膜の上を。


夫の眼がやつと、鋭く、追ひかけた。

薄闇の中でカチカチとぶつかる、

樹と 夕焼と 瞳と、

瞳と······瞳と······






底本:「富永太郎詩集」現代詩文庫、思潮社

   1975(昭和50)年7月10日初版第1刷

   1984(昭和59)年10月1日第6刷

底本の親本:「定本富永太郎詩集」中央公論社

   1971(昭和46)年1月

入力:村松洋一

校正:川山隆

2014年3月7日作成

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