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焦燥

富永太郎




母親は煎薬を煎じに行つた

枯れた葦の葉が短かいので。

ひかりが掛布の皺を打つたとき

寝台はあまりに金の唸きであつた

寝台は

いきれたつ犬の巣箱の罪をのり超え

大空の堅い眼の下に

幅びろの青葉をあつめ

棄てられた藁の熱を吸ひ

たちのぼる巷の中に

青ぐろい額の上に

むらがる蠅のうなりの中に

寝台はのど渇き

求めたのに求めたのに

枯れた葦の葉が短かいので

母親は煎薬を煎じに行つた。






底本:「富永太郎詩集」現代詩文庫、思潮社

   1975(昭和50)年7月10日初版第1刷

   1984(昭和59)年10月1日第6刷

底本の親本:「定本富永太郎詩集」中央公論社

   1971(昭和46)年1月

入力:村松洋一

校正:川山隆

2014年3月7日作成

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