人語なく、月なき今宵
色ねびし窓
此の古城なる図書室の中央の
遠き異国の材もて組める
残忍の相ある堅き牀机に
ありし日よりの凝固せる大気の重圧に
一片の此の肉体を枯坐せしめ
なほそが為に日頃捨離せる真夜中の休息を
貪りて、また貪らうとはする。
青笠に銀の台ある古いらんぷが
この陰惨の大図書室の
四周に、はた床上に高々と積みなせる
ありし世の虚しき錬金の道士、呪文の行者らの
これら怪奇の古書冊を照し出だせば
一切は錯落の影を湛へ
影は層々の影を生む。
何者の驕慢ぞ||この深夜一切倦怠の時
薄明のわだつみの泡のやうに
数夥しい侏儒のやから
おのがじゝ濃藍色の影に拠り
乱舞して湧き出でゝ
竜眼肉の
侮慢を、嘲笑を踏歌すれば
宿命の氷れる嵐
狂ほしく胸の
今や、はや、肉枯れし
はかなき指頭に現象の秘奥まさぐり
まことの君に帰命せん心も失せて
難行の坐に、放心し、仮睡する······。