眼球は日光を厭ふ故に
頭蓋の中へ引き退く。
大脳の小区画を填めるものは
困憊したさまざまの食品である。
青かびに被はれたパンの缺け、
切り口の饐えたソオセエジ······
オリーヴ油はまださらさらと透明らしいが
瓶一面の埃のために
よくは見えない。
眼球は醜い料理女である。
厨房の中はうす暗い。
彼女は床のまん中で
少しばかりの獣脂を焚く。
背の低い焔が立つて
油煙がそつと 頭蓋の天井に附く。
彼女は大脳の棚の下をそゝくさとゆきゝして
幾品かの食品をとりおろす。
さて 片隅の大鍋をとつて
もの倦げに黄いろな焔の上にかける······
彼女はこの退屈な
誰のためにあやしげな煮込みをつくらうといふのか。
彼女は知らない。
けれども、それが彼女の退屈な
しかし唯一の仕事である。
大脳はうす暗い。
頭蓋は
彼女は||眼球は愚かなのである。