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橋の上の自画像

富永太郎




今宵私のパイプは橋の上で

狂暴に煙を上昇させる。


今宵あれらの水びたしの荷足にたり

すべて昇天しなければならぬ、

頬被りした船頭たちを載せて。


電車らは花車だしの亡霊のやうに

音もなくの中に拡散し遂げる。

(靴穿きで木橋もくけうを蹈む淋しさ!)


私は明滅する「仁丹」の広告塔を憎む。

またすべての詞華集アントロジーとカルピスソーダ水とを嫌ふ。


哀れな欲望過多症患者が

人類撲滅の大志を抱いて、

最後を遂げるに間近いよるだ。


蛾よ、蛾よ、

ガードの鉄柱にとまつて、震へて、

夥しく産卵して死ぬべし、死ぬべし。


咲き出でた交番の赤ランプは

おまへの看護みとりには過ぎたるものだ。






底本:「富永太郎詩集」現代詩文庫、思潮社

   1975(昭和50)年7月10日初版第1刷

   1984(昭和59)年10月1日第6刷

底本の親本:「定本富永太郎詩集」中央公論社

   1971(昭和46)年1月

初出:「山繭 創刊号」

   1924(大正13)年

入力:村松洋一

校正:Juki

2013年10月6日作成

2014年3月7日修正

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