溝ぷちの水たまりをへらへらと泳ぐ高貴な魂がある。かれの上、梅雨晴れの輝かしい街衢の高みを過ぎ行くものは、脂粉の顔、誇りかな香りを放つ髪、新鮮な麦藁帽子、気軽に光るネクタイピン
······この魂にとつて、一日も眺めるのを欠くべからざる物らの世界である。さて、かれは、これらの物象の漸層の最下底に身を落してゐる。軽装の青年紳士の、黒檀のステツキの
石突と均しく位してゐる。しかも、かれは、この低みから、すべての部分がかれの上に在るあの世界を
みおろすことのできる、不思議な妖術を学び得た魂である
||この屈従的な魂は。