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本土の港を指して

今野大力




津軽の海風は

暮れ行く夕日の彼方へと連絡船ふねを冷たく吹き送る

桟橋に立ち去り兼ねて見送る人々とも別れて

身をマントに包み

頬をうずめて 物蔭甲板に佇めば

防波堤にともる明滅の灯火あかりも見えずなり

巍然たる函館山の容姿も

次第に海をへだてて

水夫の投げこんだ速度計の速めらるるままに

闇の中に失われゆく

かくて海峡の海は次第に荒く

空よりは白き贈り物音もなく

真闇まっくらの中に降り来り、海に消え マストに積る

船は船底にひびくエンジンの音と

波を切り進む海路の跡をしばし残して

ひたすらに蜜柑の木々実る本土の

最北端の港 青森へとはし






底本:「今野大力作品集」新日本出版社

   1995(平成7)年6月30日初版

初出:「旭川新聞」

   1928(昭和3)年5月31日

※初出時の表題は「本土を指して」です。

入力:坂本真一

校正:雪森

2015年3月8日作成

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