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立待岬にいたりて

今野大力




露西亜の船の沈んだ片身に残したと聞く石を抱いて

われは又ある日のざんげをするか

函館山は高く

要塞地として秘密を冠る

おごそかな

壮大なる岩礁の牢たる屹立は

東方に面して

何をひそかに語りつつあるか

黒鳥のあまた 岩に群がり

波に浮び 魚を捕う

かつてここら立待岬のアイヌ達は

魚群のきたるをもりを携えて立ち待てりと伝う

東海の波濤のすさまじく寄せ打つ処

崖上の草地にマントを着たる四五人の少女等

寝そべりてハーモニカを吹き、微かに歌をうたう

蟹とたわむれ 充たし得ぬ薄幸詩人の最后の願いは

この函館の地に死ぬことを願いしと碑銘に物語る

その碑は今この岬へ行く山腹の途辺みちべにあり

我をしも死地の願いを言わば

この地に久遠くおんのあこがれを抱くであろう






底本:「今野大力作品集」新日本出版社

   1995(平成7)年6月30日初版

初出:「旭川新聞」

   1928(昭和3)年5月31日

※初出時の表題は「立待岬に到りて」です。

入力:坂本真一

校正:雪森

2015年2月20日作成

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