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航海

今野大力




大いなる家鴨あひるの姿に似たる

連絡船の三等船室にて 不愉快な動揺を感じ

軽い頭痛とうつうに悩まされ

渡り行く島の奥地に痛み悩む母への哀切に泣きつつ

ひとりし寝転べば

出稼人夫等の行く先々の未だ見知らざる地への

憧れに満ちたる足に触れ

最初は驚きすくんだ私ではあるが

夢を持たない旅人のあらぬことを

しみじみ我ながら感じては

貧しき出稼労働人の心に

もろくも兄弟達の涙を感じ

足を伸べ組み添え

瞳を交し 微笑さえ見せて

無言のままにも好意を寄せ

心からなる途上の友として

一夜を共に航海したのである






底本:「今野大力作品集」新日本出版社

   1995(平成7)年6月30日初版

初出:「旭川新聞」

   1928(昭和3)年5月31日

入力:坂本真一

校正:雪森

2015年1月16日作成

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