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故郷断想

今野大力




    *

小川は濁っている

ヤマメ、イワナのようなうまい小魚はもうそこへはのぼって来ない

淀みにはどぶ臭い雑魚が居り

廿年の昔の清冷な流れの面影がない

    *

連なる丘陵は

ただ禿山であり

焼けたエゾ松の根株が淋しく黒く佇んで居り

昔そこに美しい針葉樹林があり

楡、タモ、栓、楢、紅葉、桜、胡桃、白椛シラカバの林があって

小鳥や兎達の楽しい場所であったことは

きれいに忘れ去られている

    *

部落の人々は何を考えているのか

娘のたのもしい夫のことでもない

息子のきれいな気の利いた嫁のことでもない

土地が自分のものであったら

今年の収穫が高くうれたら






底本:「今野大力作品集」新日本出版社

   1995(平成7)年6月30日初版

入力:坂本真一

校正:雪森

2015年1月16日作成

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