戻る

埋れた幻想

今野大力




慰める様な ぬるい南風に衣を

なびかせ なびかせ

大地の精が臥している

小高い丘の殺風景な(けれども希望に輝いた)処で

大地の精はつぶやいている

ああ古風な幻想よ

大地は忍従の革命家

秋を送り冬を迎え 地上すべて荒廃に帰せしめ

殺した大地の世界から

生命を呼び ま夏の

新緑あふるる青さを生む

(かくて神話の世紀から幾代の力を創った事か)

丘は今安らかな暁方あけがたの眠りを求める

朝早く営舎を出でて

美しい若い兵士がゆく

日曜の愛らしい生徒がゆく

シンプルハートの詩人がゆく

丘へ||野へ||

ああ演習が初まった

兵士は大地にまみれつつ一斉射撃の型をとる

少尉はとうをひらめかし

彼方に合図の声をまく

生徒は石に腰かけて

遠い 勇ましかった

海戦のあたりを夢見る

詩人はひとりねそべって

大地の精のつぶやいた

言葉をしきりに拾っている

「永遠に 永遠に

 地上の戦士は埋ずもれた」






底本:「今野大力作品集」新日本出版社

   1995(平成7)年6月30日初版

初出:「旭川新聞」

   1924(大正13)年7月28日

入力:坂本真一

校正:雪森

2015年1月6日作成

青空文庫作成ファイル:

このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。





●表記について



●図書カード