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待っていた一つの風景
今野大力
痩
(
やせ
)
たる土壌をかなしむなく
遠き遍土にあるをかこつなく
春となれば芽をだし
夏となれば緑を盛り花を飾る
貧しく小さくして尚たゆまず
ただ一つ
秋、凡ての秋において
ただ一つ
種を孕んだわが名知らぬ草
精一杯に伸びんとして努力空しく
夏のま中炎天のあまり枯死してしまったものもある
草にして一生は尊い生命の凡てである
一つの種は一つの種をはらんだ
そして遍土の痩土に
初冬のころ
雪を戴き埋れ、静かに待っていた一つの風景
一九二七年十二月拙き心情を綴り旭川にある小熊秀雄氏に贈る
底本:「今野大力作品集」新日本出版社
1995(平成7)年6月30日初版
初出:「旭川新聞」
1928(昭和3)年1月26日
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年3月8日作成
青空文庫作成ファイル:
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青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)
で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
●表記について
このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。
●図書カード