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写真(北満の土産)その二

今野大力




貴族の表情をこさえるために

ハルピンの白系露人の女は

ジーッと物を見すえてうっかり動揺の(ママ)にくさを見せま(ママ)とし、古い宝石の腕輪や首かざりやピンに品物以上を物語らせようとし、

窮屈なほど口元をすぼめて上品さを見せんとしている。


いくら金髪で、純粋のロシア人であっても

このロシア人はちっとも値打のないロシア人

今の世界中でロシア人の値打は

社会主義サヴェート共和国を建設して

絶大な成功と自信とを握っているところにあるんだが

いまだに帝制の昔にかえる日を夢見ている

この女達の貴族的な行儀や作法や表情や

そんなことを何か得がたい値打のように

あこがれている、ブルジョア根性の奴等は

どこかにいないか

その写真の女は

ハルピンのカフェーに

うようよと、ねたましそうに憎らしそうに

母国のロシアを見返している値打のないその女達だ。






底本:「今野大力作品集」新日本出版社

   1995(平成7)年6月30日初版

入力:坂本真一

校正:雪森

2015年2月17日作成

青空文庫作成ファイル:

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