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友と二人の夜

今野大力




遠い野中の家より

私を慕うて呉れる友は

今夜も十時がなって帰った

夜露を分けて来て呉れても

あたたかいもてなしさえ

貧しい私達にはゆるされず

ひとえの着物のはじを

幾度か合せなが

語りても聞いてもほほえみ乍ら

何程のへだてた思いもなく

ありのままの事を語らいて

お互に解け合うよろこび

本箱からは

勝手なものをとり出して

入れ様ともせず

一ぱいに机の上につまされる

傍にも又誰ひとり

じゃまになる人もなければ

ただ二人自由に

束縛の棚をのがれて

友も私もにごりのない

友情にひたっている


······平岡君と語りし夜に······






底本:「今野大力作品集」新日本出版社

   1995(平成7)年6月30日初版

初出:「青い果第三輯」

   1922(大正11)年9月刊

入力:坂本真一

校正:雪森

2015年3月8日作成

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