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老将軍と大学教授

今野大力




相当にぎやかな街の電柱の下のベンチに

素晴らしい将軍が休んでいる

私は写真を見てそう思った

が、この老将軍は

前歴が何だかわからない

ただぶくぶくした襟毛つきの厚っぽたい外套をきて

帽子はないが

ない方がずっと素晴しい頭髪やヒゲを効果的に見せるし

眉毛でも普通の人間とは凡そ縁遠い

たくましくゆかりあり気な一人の人物と見える


だがこの老将軍は白系露ママの新聞売である

日本人には驚くだけである


同じベンチにも一人いる

大学教授が一寸腰かけているようである

ところがこの男はルンペン

新聞を読んでいるが、

まだ春先き早い頃であろうに

うすっぺらなレインコートをきて

足を重ね片手をまたぐらに挟んでいる

やはり白系露人の一人


ブルジョア精神を捨てられず

労働がきらいで

ソヴェートに帰らずに新聞売とルンペンになっている彼等

彼らは何を夢見つつ

日本人の次第に進出する

ハルピンの街頭に佇むことか、


五・二〇






底本:「今野大力作品集」新日本出版社

   1995(平成7)年6月30日初版

入力:坂本真一

校正:雪森

2015年5月24日作成

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