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東方の窓辺にて

今野大力




私のいる家の東方に窓があった

私は農家の二階に間借りして幾十日かを過す身であった

私は自分の起居に不自由の身をそこに運び、

ひたすら、健康の日を恋していたのである、

かがやく健康の美しさは私の希望であった


私は東方に追憶の瞬間を持つ

私の室の東方の窓はそこへの視野を展開している

ハコネの連山は眺望の彼方にある

山脈の起伏は無言に昨日も今日も変りはないが

ただ風に送られる雲の往来と空色の変化とを発見する、


雲の彼方

橙色の空の下

朝となれば朝焼け

夕べとなれば夕焼け

真紅に輝く折々の熱情は

私の病める身になおも燃えんとする


私は今東方の窓辺に佇む

私は一人の妻を想うのみであろうか、

私はただ昨日の日にきれいな煙を吐きかけるのみであろうか

私の胸には

決してたゆることなき未来への希望が

決して消えることなき新らしき日本の姿が

この窓を通し

多くの同志への信頼の中に燃えつつあるを発見する






底本:「今野大力作品集」新日本出版社

   1995(平成7)年6月30日初版

入力:坂本真一

校正:雪森

2015年3月8日作成

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