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たたかいの中に

今野大力




母を飢えさせ

妻子を飢えさせ

幼き弟を稼がせて

どうやら俺のいない家が保たれている

飢死うえじにの自由」は九尺二間の長屋を占領し

共同井戸の水さえくさってまずい


芋を煮て

仏壇に捧げようとも

心から、真に生命のきわみから

諦めぬうらみをこめて手向けとなり

俺が死なないように

むざむざとうらみの手に殺されないように

無言のいのりがひそんでいる


平和な家庭||生活、

平和な生存、

おしゃべりなしの真剣な愛、

他人をおかすことなく

他人と助け合い 他人と共にけて

輝やかしい生活を夢む

母や妻の胸に、

俺は全身の血潮を感ずる


誰か妻を、いとしき愛妻を

誰か子を、わが血の通(ママ)る児を

誰か母を、俺を生める肉親の母を、

見捨て 見放し

街頭にさらし得るものぞ


歴史の流れ

たたかいのうずまき

かまびすしきめい

戦争と革命の時代に生れてきて

明日のわがかばねは冷たくなるとも

止むに止まれぬ確信にもえて

たたかわんとする意志の力


母よ 妻よ 子よ 弟よ

俺は達者でいる

俺は生きている、たたかいの中に。






底本:「今野大力作品集」新日本出版社

   1995(平成7)年6月30日初版

入力:坂本真一

校正:雪森

2015年2月20日作成

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