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大和ぶり

佐佐木信綱





大和なればあららぎは見ゆいらか見ゆ菜たねがらやく畑のをち


道にそふ切づまの家柿若葉生駒遠嶺は淡々あは/\と霞み




いゆきめぐるあしびがもとの道明るし春日野にある此のゆふべなり


我が行くは憶良おくらの家にあらじかとふと思ひけり春日かすがの月夜




朝窓のそとに来遊ぶ鹿を見る奈良にやどりし喜びの一つ


大木あふちむらさき淡きいろしづかに朝の庭苑の一角いつかくを占む




靄ごもる布留ふるの川添とめゆかば昔少女にけだし逢はむかも


秋雨に飛鳥を行けば遠つ世のおもひするかな萩の花ちる




巍々たる宝刹のもとおほけなくわが歌碑ここに建たむと思へや


瑞々し菩提樹の蔭にわが歌の石ぶみは建てりよき処得て






底本:「大和の古文化」近畿日本叢書、近畿日本鉄道

   1960(昭和35)年9月16日発行

入力:岩澤秀紀

校正:杉浦鳥見

2020年5月27日作成

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