「今の奴、
「味方を四五人騙し討ちに斬って居るぞ。逃してはならぬ奴だ」
「まだ遠くへは行くまい」
「見付かったら、朋輩の敵、
その
「||||」
不敵な舌鼓を一つ、
「畜生ッ、||俺は怪しい人間じゃねえ」
血の臭いに酔って、
明治元年五月十五日の夕刻。
その時芳年は三十歳、御家人の子に生れて武士の血を
油のような生温かい雨が降るのに、芳年の
そのくせ、藪の中や道の上に、斬られて死んでいる死骸を見ると、彰義隊であろうと官兵であろうと一々覗いて、その相好と、歪んだ姿態を見極めずには居られなかったのです。
「ひどい傷だが、||仏様のような穏かな顔をして居る」
そんな無事な死顔は、芳年の興味を引かなかったのでしょう。
「これは凄い」
時々は死体の前に
不意に||
「居たぞ居たぞ」
バラバラと
「あッ、お許し」
驚き騒ぐ芳年、桐油を引き

「何者だッ、うぬッ」
「お許し、お許し下さりませ。私は怪しい者じゃございません」
行儀の悪い猫の子のように
「怪しくないことがあるものか。
風体は落武者とも見えません。多分戦塵のまだ納まらぬ山内に潜り込んで、掠奪を
「絵を描いて居ります。私は、私は芳年と言う浮世絵師で||」
「何? 浮世絵師?
「そ、それは違います。あなたの
芳年は一所懸命でした。自分に掛けられた疑惑を解くというよりも、硝煙と血潮の洗礼を受けた浮世絵師の、精一杯の誇りを||
「
「写しますとも、ヘエ、身体の顫えるのは
「よし、それじゃ、もっと凄いところを見せてやろう、一緒について来い」
「ヘエ||」
「さア」
促されて芳年は起ち上りましたが、意気地無くも膝の
「た、起てません」
「ハッハッ、馬鹿な奴だ。腰が抜けたのか、そんな事で本当の戦が描けるものか」
「少し気を
「よしよし、
芳年は腰の抜けたまま、松の根方に縛り付けられ、官兵二人はそれを見張るともなく残されました。
あとの一隊はバラバラと上野の森へ、暮れ残る道を取って返します。
「やい、絵師」
「ヘエ||」
「俺を描いて見ろ」
「ヘエ||」
「この武者振りを一つ描いて見ろ、出来が良かったら、国への
一人の官兵は威儀を作りました。
「縛られて居ちゃ描けません」
芳年は泣き出しそうでした。
「よしよし、それじゃ
「それじゃ御免
「何?」
「出来不出来は
「俺の武者振りが悪いというのか」
「そう言うわけじゃございませんが、お気に召さないといけませんから、描くのは勘弁して下さい||死人や
芳年は縛られ乍らも、頑強にはね飛ばしました。こみ上げて来る強大な自尊心がガタガタ顫え乍らも、
「無礼な奴だ、そんな事を言うと、痛い目を見るぞ||絵描きだと言っても、描くところを見なければその帳面の絵だって、誰が描いたか解ったものじゃない。
「と、
そう言う芳年の後に廻って一人は
「
「フム、それも宜かろう」
二人は何やら合図をして居ります。
「あッ、お許しを。私は、彰義隊なんかじゃございません」
が、その時奇蹟が起りました。芳年の頭上に振り
「あッ」
「己れッ」
飛付くもう一人の官兵の前へ、石垣を這い上ってスックと立ったのは、
二人の官兵はよく闘いましたが、一人は足を苅られ、一人は不意を喰って、死物狂いの欽之丞の敵ではありません。真にあッと言う間に、左右に斬って落されました。
二人の官兵を片付けた欽之丞は、芳年の側に寄って、夕闇の中からその顔を
「気を
冷たい
「あッ、お助け、命ばかりは||」
芳年は
「命は取らぬが、その方の着物が入用なのだ、暫らく借りるぞ」
武装を脱ぎ捨てた欽之丞は、芳年の
心持髷を直して、芳年の手拭を取上げて
「それ、これは礼だ」
ポンと
「あ、もし、お武家様」
芳年はその小粒には目もくれず、襦袢一つの姿で泥の中に
「何んだ、金が不足か」
振り返った欽之丞、
「その帳面だけは返して下さい、||そいつは、私の命から二番目で」
「これか」
無意識に懐にねじ込んだ帳面を取出すと、欽之丞はポンと
「あ、泥が附くじゃありませんか」
絵師の憤懣が、ツイ軽い抗議になりますが、欽之丞はそれを耳にも掛けず、夕闇の濃くなり行く上野、谷中、道灌山かけての木立の中を見て居ります。
「待て待てッ、怪しい奴」
不意に藪を分けて一人、日下部欽之丞の行手に立ち
「ヘエヘエ、私共は土地の者でございます。戦見物と申しちゃ悪うございますが、一生に一度の事と存じまして、ツイ、ウカウカと深入りいたしました。お見逃しを願います」
日下部欽之丞は腹からの町人らしい滑らかな調子でした。江戸侍の器用さでしょう。
「もう一人の男は
「連れは落武者に剥がれました」
日下部欽之丞ケロリとしてこんな事を言うのです。
「頬冠りを取れ」
「ヘエ||」
「頬冠りのまま武士に挨拶する奴があるか」
「ヘエ||」
欽之丞の左の手は挙りました。頬冠りを取ると見せて、右手は早くも懐の申の脇差の柄に||
「え||ッ」
紫電一閃、
「わッ」
羅紗陣羽織の肩から鮮血を吹き上げて、相手は倒れたのです。
「お助けッ」
芳年も、あまりの事に肝を潰して、欽之丞の足許に這いました。
「馬鹿
「ヘエ||」
「其方の住居は
血刀を拭い乍ら、欽之丞は訊ねました。
「あ、浅草の馬道でございます」
「大して遠くはないな、||今晩一と晩俺を泊めろ」
「||||」
「いやか」
生血を拭いたばかりの刀が、芳年の眼の前へ、思わせ振りに動きます。
「と、飛んでもない」
「では、案内せい、||こんなところに長居は無用だ」
「||||」
「さア」
促され乍ら、芳年は
それから四五日、江戸には血生臭い風が吹き続きました。
その風に憑かれでもしたように、大蘇芳年は、朝から晩まで、街から街へと、物騒な噂を追い歩いて居たのです。
小塚ヶ原の刑場は言うに及ばず、
馬道の留守宅では、押かけ女房のおよつが、これも押かけ
「本当にあの晩ほどびっくりしたことは無いよ。襦袢一枚のあの人の後から、彰義隊へ入ったという欽さんが、のそりと入って来るんだもの||」
およつは、芳年の留守の間、狭い六畳の、日下部欽之丞の枕許に坐り切りで、根が生えたように、
「俺だって驚いたよ。此春年が明けて、千住から消えたお前が、場所もあろうに、俺が逃げ込んで来たヘボ絵描きの家の、長火鉢の前に納まって居ようとは、お釈迦様でも気が付くわけはねえ」
欽之丞は、そんな
「でも、
長い
「傷はもう
「あれさ、お前、起き出した時は、追い出される時じゃないか、それに縁側やお勝手でウロウロされちゃ、近所の人の手前もあるし」
「その近所に、飛んだ綺麗な娘が居るじゃないか」
「まア、呆れたよ。もうあれを見たのかい、||でもあれだけはお
「ヘエ||、芳年師匠、芸道ばかりと思ったら、そんな腕もあるのかい」
欽之丞は
「そう言うけれど、私はつくづくあの人が怖くなることがあるよ」
「あんまり物驚きをする柄では無いようだが、||何が一体怖いんだ」
「あの通り、絵を描くより
「||||」
およつはごくりと
「あの通りの良い腕を持ち乍ら、右から左へ金になる、
「||||」
「上野の
およつはそう話し続け乍ら、何んとなく胴顫いを感ずる様子です。
「私はつくづく愛想を尽き果てたよ。幸い飛込んだお前さんは、私の為には渡りに舟さ、迷惑だろうけれど、
「俺もそれを考えないわけじゃ無いが、何んと言っても、まだ探索の目が厳しいから、一と足路地を出たら、どんな事になるか解ったものじゃない。それに
「それなら幸い||」
およつは、少しばかり隠して持っている、自分の虎の子のことを考えて居ました。
「
日下部欽之丞は、
「それじゃ、私が一緒に行けないではないか。あの人に行先まで教えてしまっては、命の鍵を握られているも同様、それに、二人の仲を薄々嗅ぎつけた様子だから、後腐れのないように、バッサリやって、
およつの肝の太さ、あまり気の進まぬ日下部欽之丞を説き伏せて、底の知れない悪魔の淵へと誘い入れる
「ちょいと」
ひそやかな声に
「お浜さんじゃないか、何んか用事かい」
芳年は気軽な調子で
「今入って行くのは、お止しなさいよ、迷惑する人が二人あるようだから」
その娘の口に含んだ毒が、妙に芳年を焦立たせます。
「何?」
「ね、芳年さん、人のことだけど、私はもう、腹が立って腹が立って、あの彰義隊の生っ白い二本差を、いっそ屯所へ訴人してやろうかと||」
「シッ||」
二人は継穂もなく、黙って顔を見合せました。
「お前さんが、あんまりお人よし過ぎるんですよ。あんな恩知らずの畜生は、なぶり殺しにでもされて||」
「なぶり殺し?」
「首は三尺高い木の上に
お浜の
「
芳年の空想力は鼓舞されました。無慚絵の素晴しい題材が、お浜の言葉の上に、
「足りない、まだ足りない」
江戸人の心を恐怖のドン底に投込んだ、私刑、暗殺、
「何が足りないと言うんです、え?」
「凄さが足りない」
「え? ||お前さん、
お浜には、芳年の心持が解る筈もありません。日下部欽之丞とおよつの関係を言い当てられて、フラフラと気が変になったのであるまいか||お浜はそんな事を考えるのが精一杯だったのです。
「放って置いてくれ、お浜さん、俺にも少しは考えたことがあるから||」
解ったような、解らないような事を言い捨てて、芳年は自分の家へ入って行きました。
「||||」
その臆病らしい姿、作り笑いさえ浮べた横顔を、お浜はどんなに腑甲斐のないものに思ったのでしょう。
御家人の子に生れて、その描く絵と同じように、骨っぽい男らしい人柄を見上げる心持で居たお浜は、近頃の芳年の意気地のない態度に、言いようのない憤懣を感じて居たのです。
「
お浜の眼には、恥というものを、
「日下部さん、御安心なさい。三河島の御親類じゃ、日下部さんが無事と聴いて、大喜びでしたよ」
芳年の言葉にも態度にも、何んのこだわりもありません。
「それは
日下部欽之丞は、ツイ今しがたまで、およつと、よからぬ事を企んでいたことなどは、綺麗に忘れてしまった様子です。
「で、||馬道よりは近所が遠いだけでも身を隠す都合が宜かろうから、すぐおつれするようにと、
「それで結構、飛んだ御苦労であったな、早速支度をして、今夜にも出かけるとしようか」
欽之丞はもう、まだ癒らぬ首の傷のことも忘れて、床から飛起きて居りました。
「いえ、夜は
「
日下部欽之丞は支度を始めました。
「ね、欽さん」
「||||」
門口まで追って出たおよつ、芳年が一と足先へ行ったのを確かめて、
「わざと途中で手間取って、
およつは手刀で、そっと物を切る
「それが、およつ||」
「待ってますよ、暗くなったら、直ぐ迎いに来て下さい。解って欽さん」
「||||」
欽之丞はうなずくと、一と足先に行った芳年の後ろ姿を追いました。
およつは坐っても起ってもいられない心持でした。長火鉢の前へ行ったり、門口へ出たり、お勝手を覗いたり、
「欽さん」
ヒョイと見ると、垣の間から白い顔、
お浜の
「何んだい、お前は? 昨日も
およつは気が立って居りました。
「芳年さんは、まだ帰らないの?」
お浜の調子の邪念の無さ。
「それが
ツイ釣られるともなく、およつも縁先へ泳ぎ出しました。
「だって、ツイ
お浜の調子のさり気ない滑らかさは、およつに取っては、此上もない威嚇でした。が、||あんなに用心深い支度をして行った欽さんに、万に一つ間違いなどある筈もありません。あの人が訴人するか、屯所へ引渡したのなら別だけれど、あんな臆病者に、そんなことが出来る筈も無し||
「彰義隊の落武者? そんな者に掛り合いは無いよ。余計なお節介をするより、さっさと自分の家へ帰って、内職の楊枝でも拵えるが宜い、馬鹿馬鹿しい」
「そんなら宜いけれど||」
お浜は煮え切らぬ事を言い乍ら、臆病な狐のように、振り返り振り返り帰って行きます。
「畜生ッ、何んて嫌な奴だろう」
およつは縁側から引込みました。
が、その時丁度、格子を開けて、
「あッ」
恐ろしい予感が、水のようにおよつの背筋を走りました。
「およつ、居たか」
「お前さん、何んて顔だい、||あの人が
およつの言葉は喉の中で消えました。
「
「えッ」
「上野で散々官兵を斬ったことを知って居る者があって、其場でなぶり殺し同様」
「じゃ、
「これを見ろ」
芳年は、ポンと画稿を投げました。
手に取って見る
「えッ、畜生」
およつは画稿を叩き付けて、いきなり芳年に武者振り付きました。
「あッ、何をするんだ」
「お前と言う男は、何んと言う卑怯者だい。私とあの人の仲を疑って、力ずくで叶わないから芋兵に、訴えて召し捕らせ、こんな
「俺がそんな事を知るものか、離せ」
「わざわざ陽のあるうちに連れ出したのは、これを絵に描き度いために違いない。三月でも四月でも、一緒に住んだお前の心持が、私に解らないと思うのかッ」
「馬鹿なッ」
「お前は上野で官兵に斬られるところを、あの人に助けられたと言ったろう。一旦かくまった恩人を訴人して、義理も人情もない、それでも江戸っ
およつは半狂乱でした。揉みも揉んだ姿で、芳年の首へ胸へ、
「俺じゃない||誰か訴人をしたに違いないが、この芳年じゃ無い」
「それほど潔白なら、何んだって、こんな無慚絵なんか描いたんだ。人の死ぬのをヌケヌケと見ていて宜いものか悪いものか、思い知らせてやるから、畜生ッ」
小格子で年一杯叩き上げたおよつは、妖艶で取廻しの良い女でしたが、その代り、執拗で病的で、意地っ張りで気違い染みた女でした。
「待ちなよ、俺だって人の殺されるのが面白いわけじゃないが、今の時世を写すには、こんなものでも描くより外に仕方が無い。天下後世に、俺の芸道を遺すためには、油汗を流し乍ら、歯ぎしりして、無慚絵を描くのだ」
「まァ、何んと言う曲った根性だろう。地獄の鬼だって、そんな
半狂乱のおよつは、芳年に
「馬鹿ッ、宜い加減にしないか。俺はそんなことで、人を殺す
芳年もツイ持て余し気味に、およつの絡み付く
「私一人で死ねと言うんだね、||ようし、あの人を訴人したお前の前で、見事死んで見せよう、驚くな」
いきなり台所へ駆け込んだおよつ、芳年がそれを追う隙もありません。キャッと言う悲鳴、||研ぎすました出刃庖丁で、我とわが喉も胸も、顔までも掻き切って、満身鮮血を浴びたまま、よろぼいよろぼい這い出して来たのです。
「あッ、何んと言うことをするんだ」
「さァ、この、私の顔をよく見ておくれ。この顔を、この姿を、||お前の筆で描けるものなら描いておくれ」
宙に泳ぐ手、
女の顔は、美しいだけに凄まじいものでした。
「この顔を見て、お前が夜寝られるか寝られないか、||よく見ておくれ。欽さんを訴人した上に、この私まで、||手に掛けなくても、なぶり殺しにしたお前だ||」
「待て、言うことがある。何も
芳年は血に狂う手負いのおよつを辛くも抱き止めて、二軒長屋の隣家||お浜の家のたたずまいを指します。
生垣一つを隔てて、明けっ放した庭先の夕陽に、何も彼も手に取るよう。この時お浜の家には、隊長に従って官兵が七八人、ドカドカと入って来たのでした。
「日下部欽之丞を訴人した、浜というのは其方か。女乍ら、賊軍の大物を討たせた手柄は抜群だ。追って褒美の御沙汰はある筈だが、取あえずお上のお言葉だけを伝えて置く」
そう言う官兵の隊長の声が、近所合壁へも聞えよがしに、凜々と響き渡るのです。
「||||」
それを聴いたおよつ、芳年の腕の中に、必死の眼を見開きました。
「聴いたか、およつ、||あれで、何も彼も解ったろう。改めて言うまでもないが、||俺は
「||||」
「どうせ勤めをしたお前だ。馴染も深間もあったところで、俺はそんな事でヤキモキするものか」
静かに説く芳年、隣の庭からは官兵が引揚げて、お浜のいそいそとした姿が、それを送って出た様子まで手に取るよう。
「お前さん」
「解ったか、およつ」
「堪忍しておくれ、私は||」
今死ぬおよつの眼には、初めて油のような涙が
「解ったらそれでよい。傷は浅い。静かに手当をするが宜い」
「いえ、私は助からない。助かり度くもない、||お前さんに済まないけれど、私は、私は欽さんの後が追って行き度い」
およつは声もなく、芳年の膝の上に、身を顫わせて泣くのです。
「それも解っている、どうせこの俺とは浅い縁だ」
「堪忍して」
「可哀想に、||お前という女は」
「お前さん、||たった一つの願い、聴いてください」
「何んだ」
「お前さんは此間から、殺しも斬合いも
「||||」
「幸い、この私の浅ましい姿、||息のあるうちに、描いて下さい、||せめてもの恩報じ」
芳年の膝を降りたおよつは、最後の力を絞り出すように、柱に
「それはいけない、||お前の顔に怨は消えた。死ぬ苦しみはあっても、怨女の悪相は無くなってしまった」
まこと、法悦に似たものが、血みどろなおよつの顔を、仏作ってさえ見せているのです。
が、形勢は一瞬にして変りました。
此時、隣の物音に気の付いたお浜が、官兵を送り出した
「あッ」
目の前に展開した、血みどろの光景に、お浜は逃げることも忘れて釘付けになりました。
「畜生ッ、お前が訴人したんだね、||この怨み、覚えてお出で」
お浜の顔を見ると、
「助け||てエ」
あまりの事に、お浜は狭い庭の上に這いました。眼は縁の柱に
「
キリキリと鳴るおよつの歯、風の無いのに、サッとなびく黒髪、柱に絡んだ手が緩むと、手負の
最早、背に迫る死の手、お浜をつれて、八寒地獄の底までも行く積りでしょう。
芳年は思わず画帳を取上げました。死の一瞬手前の、怨女の悪相が、名筆に従って、サラサラと描き上げられて行くのです。そのかみ、猛火の中のわが娘を見たという、仏画師
大蘇芳年の傑作「英名二十八人衆句」は
芳年の無慚絵が持った境地、その生々しいリアリズムは、明治画壇に大きなスタートを与えました。それが