「親分の前だが||」
ガラッ八の八五郎は、何やらニヤニヤとしております。
「前だか後ろだか知らないが、人の顔を見て、思い出し笑いをするのは罪が深いぜ。何をいったい思い詰めたんだ」
銭形の平次は相変らずこんな調子でした。年を取っても貧乏しても気の若さと
「ね、親分の前だが、
「褒美?」
「忘れちゃいけませんよ。近ごろ御府内にチョイチョイ
「なんだその事か、||そいつは取らぬ
「でも、万一ということがあるでしょう。あっしがその贋金造りを捕えたら、どうなるでしょう、親分」
「たいそうな気組みだが、||まア
「でも||」
「万一なんてことがあるものか、
「谷中の富籤ほども分がありませんかね、親分」
「まア、そんな事だろうよ」
銭形の平次が諦めているほど、その贋金遣いは巧妙を極めました。
そのころ横行した贋金というのは、いわゆる銅脈といった種類で、銅の台に巧みな
「あの||」
そんな夢のような事を話しているガラッ八の後ろへ、平次の女房のお静はそっと顔を出しました。相変らず若くて内気で可愛らしい女房ぶりです。
「なんだ」
「お客様ですが||」
「お客様? どなただ」
「それがわかりません。
「お勝手か」
「え」
平次は黙って立ち上がると、女房を掻きのけるように、お勝手へ顔を出しました。そこには誰もいません。
二月の町は宵ながら冴え返って、戸をあけたままのお勝手の土間に、冷たい月の光が一パイに射している中には、お静の言う真っ蒼になって顫えているお客はおろか、顔馴染の野良犬も来てはいなかったのです。
「八」
「ヘエ」
たったそれだけの号令で、八五郎は
間もなく路地一パイの騒ぎを展開しながら、八五郎は一人の若い男を
「この野郎、逃げようたって逃がすものか。さア、真っ直ぐに歩け」
「行きますよ、親分、||逃げも隠れもしません。どうせ銭形の親分にお願いするつもりで来たんですもの」
「何を言やがる、||そんなら逃げるわけはないじゃないか」
八五郎に小突かれながら来るのは、二十三四のめくら
「八、何という騒ぎだ。御近所の衆がびっくりするじゃないか」
平次は見兼ねて戸口から声を掛けます。一国者の八五郎は、お勝手を
「いったいどうしたというんだ。||お前さんはお勝手を覗いて、俺に逢いたいと言ったんだろう」
「ヘエ」
「それが急に逃げ出すからこんな騒ぎになるじゃないか」
若い男を家の中に入れると、銭形の平次は打ち解けた調子でこう問い進むのでした。
「相済みません。||私は怖くなりましたんで、ヘエ||」
若い男はようやく口を開きました。
「何が怖かったんだ。俺はそんな怖い顔をした覚えはないが||」
平次はツイ
「||なまじっか、私が言いさえしなければ、誰も知るはずのないことを面喰らって余計なことを言って、巻き添えになるのが恐ろしゅうございます」
「何の巻き添えなんだ。||正直に話したらお前さんの迷惑になるようにはしない。
「染吉が殺されていたんで、ヘエ||、驚いたの驚かないのって||」
突然そんな事を言って、若い男はそっと後ろを見廻します。
「染吉が殺された?」
このあわてた男の口から、事件の実相をつかみ出すのは、銭形の平次にしても、容易ならぬ仕事でした。
この男は勇太郎という湯島のささやかな炭屋の亭主で、幼友達の染吉というのと、今日の夕刻
「||驚いて銭形の親分さんのところまで飛んで来ました。銭形の親分さんなら、染吉を殺した本当の
若い男||炭屋の勇太郎は、ガタガタ顫えながらようやくこれだけの事を話したのです。
「それっきりか」
ガラッ八は後ろから少し荒っぽい声を掛けました。
「それっきりでございます。もっとも、私の秤は死骸の
「染吉と、どんな話をしたんだ。||そいつを聴こう。||いや、どうせ現場へ行くんだから歩きながらの方がいい」
平次は手早く仕度をして飛出すと、大根畑への道を急ぎながら、勇太郎の答えを
「いろいろ意見を申しました」
「意見というと?」
「染吉と私は湯島に生れて湯島に育って、本当の幼友達でございます。私はこの通り分別も工夫もない人間で、親譲りの小さい炭屋を、後生大事に守っておりますが、染吉は働き者で派手好きで、親譲りの
「フム」
「すると染吉は、近頃いろいろ考えた末、危ない商売とフッツリ縁を切って、本当に
「それから」
「一度は薄情な仕打ちもした
「お芳というのは?」
「妻恋坂の荒物屋の娘で、染吉の許嫁でございました」
そう言う勇太郎の調子には、言うに言われぬ深い感情のあるのを、平次は見逃さなかったのです。
「お前とは関係はないのか」
「とんでもない、親分さん、私などが||」
パッと赤くなる勇太郎の
妻恋稲荷の前の茶店||昼は婆さんが一人
往来から少し離れているので、幸い野次馬の眼にも触れなかったらしく、平次とガラッ八が、勇太郎を追っ立てるようにして行った時は、何もかも勇太郎が発見した時のままになっておりました。
「こいつはひどい」
八五郎が思わず尻ごみしたのも無理はありません。染吉の死骸は縁台の下に滑り落ちておりますが、後ろから重い物で、頭を一と思いに叩かれたらしく、よく
「物も言わずに死んだことだろうな」
平次はそう言いながら死骸を引起して、いろいろ調べております。
「何で打ったんでしょう」
ガラッ八はその辺を捜しましたが、兇器になるような石も棒も見当らず、かえって染吉の持物だったらしい、
「中に何があるか見た上で、お前が預かっておいてくれ」
平次は声をかけました。
「何にもありませんよ」
「抜かれたんだろう」
「これが目当ての泥棒ですかね」
「いや、そんなことじゃあるまいよ。泥棒ならこんな結構な煙草入を
平次は染吉の死骸から抜いた
「大変な品ですね」
「フーム、こんな物を持つのは、江戸でも名のある町人か
平次は小判を月光にすかして、ヒョイと重さを引いて見ましたが、元の煙草入に納めて、自分の懐ろに入れました。その頃からただならぬ物の気はいに驚いて、近所の衆や往来の野次馬が、次第に集まり、町役人なども駆けつけて来ます。
「それにしても贅沢な人間ですね」
ガラッ八は月の光や、次第に集まってくる
見る影もない死にようですが、染吉というのはよっぽどの
一と通り
「八、ちょっと付き合ってみないか」
「一杯やらかすんでしょう、へッ、へッ」
「馬鹿だなア、付き合えって言えば、飲むことだと思ってやがる。染吉殺しはまだ目鼻もつかないじゃないか。明日の
「へッ、付き合いますよ。||酒は御免を
「急にいきり出すじゃないか、||飲み
そう言いながら、平次が叩いたのは、妻恋坂の荒物屋の戸でした。
そこには六十を越した父親の
「これは親分様方」
周吉はあわてて引っかけたらしい
「染吉が殺されたんだが、知っているだろうな」
平次は短兵急でした。
「あの騒ぎですもの、よく知っておりますよ。でも、年寄りと若い女の見るようなものじゃありませんから、お芳も外へは出しません」
周吉の調子には、年寄りらしい用心深さがあります。
「染吉は今晩お芳と逢う約束だったそうだな」
「そんな事が親分||」
あわてて弁解する父親の袖をそっと引いて、
「父さん、みんな申上げた方がいいでしょう、||染吉さんは久し振りで逢って話したいことがあるから、父さんには
お芳の顔はさすがに緊張して蒼くなります。
「行ったのか」
「ハイ、父さんの御機嫌がむずかしくて、家を出られないんで、少し遅れて行ってみると」
「············」
「親分さん方が、染吉さんの死骸を調べているところでした」
「その前は確かに出なかったのか」
「出やしません。出しもしなかったので、ヘエ」
周吉は
「染吉とお芳さんが、許嫁だったという
「とんでもない、親分。あんな道楽者のところへ、大事の娘をやるわけはありません。もっとも昔はあんな男じゃありませんでした。この私も娘をやる気になったこともありますが||」
「どうだいお芳さん」
平次は周吉に構わず、お芳に問い進みました。
「一年前、そんな話もありました。でも、近頃の染吉さんは||」
お芳の顔には、悩ましさが雲のごとく湧きます。
「勇太郎は染吉と張り合ったんじゃないのか」
「あの人は正直で気の良い人です。一時染吉さんと面白くない事があっても、それを根にもつような人じゃございません」
お芳はむしろ勇太郎に好意を持っているらしく、躍起となって弁解します。
「親分、何にもわかりませんよ。この上は勇太郎を縛って、二三
いろいろの情報を集めさせにやった八五郎は、
「そんなわけには行かないよ。本当に勇太郎が
平次は落着き払っております。
「家へ帰って着換えて来る
「そんな落着いたことの出来る男じゃない」
「でも、勇太郎の
「どこで見付かったんだ」
「町内の若い者が妻恋稲荷の後ろの
「秤と分銅と一緒になっていたのか」
「秤の先へ分銅を縛ってあったそうです」
「フーム」
「これだけでも、
「家へ帰って着物を換えるほどの落着きがあるなら、分銅くらいは洗っておけそうなものじゃないか。現場のすぐ近くへ、血の付いたまま捨てて行くのは、下手人はこの秤の持主ではないと言っているようなものだ。勇太郎はそれほどの馬鹿じゃあるまい」
「そうですかね」
平次の論理の前に、ガラッ八は小首を
「お芳はどうした」
「世間では何とか言うが、あの娘は人を殺すような人間じゃありませんよ。染吉はお芳の生真面目なのが嫌になって、この一年ばかり前から、丸山町の直助のところへ入りびたって、その妹のお辰というのに夢中になっているが」
「丸山町の直助||聞いた事のない名だな」
「
「いずれそいつは後で当ってみよう。ところで、俺の方は大変なものを見付けたよ」
「何です、親分」
「これだ」
平次はゆうべ染吉の死骸から持って来た、
「小判がどうかしたんで」
「こいつは
「えッ」
「近ごろ江戸中を騒がせている銅脈さ。
「ヘエ||」
「殺された染吉が、悪事から身を退いて、俺のところへ来ると言っていたそうだな」
「勇太郎はそんな事を言いましたね」
「その途中で殺されたのかも知れない。||ありそうな事だ。殺した奴は染吉の財布ばかり覗いた。その中の物をみんな
「············」
飛躍する平次の天才、その推理の塔の積み重なるのを、八五郎は
「ところが、染吉は用心して、大事の小判を煙草入の中へ入れた。||
「············」
「八、こいつは面白くなったぞ」
「何が面白いんで? 親分」
八五郎は
「染吉は
「············」
「近ごろ何かのわけがあって、贋金遣いの仲間が恐ろしくなり、自首して出て、自分の罪だけでも許して貰おうとしている矢先、仲間の者に
「············」
「染吉を殺した下手人は、よっぽど染吉と
「············」
「そこへ勇太郎が帰って来たので、秤を
「誰でしょう。その下手人は?」
「解らない。まるっきり解らない。とにかく染吉の
「差当り丸山町の直助はどうです」
「行ってみよう。無駄かも知れないが」
平次とガラッ八は、そこから真っ直ぐに、丸山町に飛んだことは言うまでもありません。
丸山町の直助の家は、
不意に訪ねると、幸い主人の直助も、妹のお辰も顔を揃えておりました。直助は三十を越した、愛嬌のある好い男、少しばかり
「銭形の親分さんでしたか、それはどうもお見それ申しました。私は御当地へ参ってまだ三年と経ちませんので、土地の方にも馴染が薄うございます。||染吉さんが殺されたそうで、ヘエ、ヘエ、人から聞かされてびっくりいたしました。私も湯島のお宅へ顔だけ出して参りましたが気の毒なことでございます。気持の好い方でしたが、||近頃はよくここへも見えました。現に昨日もおいでで、昼過ぎまで話して帰りましたが||」
そういった
染吉との関係は商売のことから懇意になり親しく往来しているうちに、妹のお辰を嫁に欲しいという話になり、本人も大方承知していたが、具体的な話を進める前にあんな事になって、お辰も力を落している||というのです。
話の中に、妹のお辰も出て来ました。二十一二の年増盛りで、お芳の
「まア、本当に、染吉さんは、お可哀想に。私はもう、死んでしまいたいと思いました」
そんな事を言いながら、涙を拭いたり、兄の直助の身の廻りの世話をしたり、
「ゆうべは外へ出なかったろうな」
平次は委細構わず調べをつづけました。
「妹と二人、一杯飲んで、好きな小唄の稽古をして、早寝をしてしまいました。||もっとも、私の出入りは必ず前のお長屋の中を通りますから、その辺で
そう言われるとそれっきりの事です。
それにしても調度の見事さ、暮しの豊かさ、ここの生暖かい空気に包まれていると、平次も八五郎も何かうっとりした心持になります。
「江戸には
「ヘエ、どうぞ、親分方が御覧になるような家ではございませんが」
直助は気軽に立って、平次と八五郎に家の中を見せてくれました。中は贅を尽しておりますが、至って簡単で明るくて、
「二階は?」
「富士山の見えるのが自慢でございますが、あの通り
指差すと、小石川一帯の町を眼下に眺めて、その上に富士も見える景色ですが、崖の竹林がひどく繁って、すっかりその眺望を隠しております。
そこを出た平次とガラッ八は、前の長屋で一と通り直助
近所でいろいろ噂を集めましたが、贅沢で人を人臭いとも思わない染吉には、相当に反感があり、突っ込んだことは誰も知りません。
「親分、下手人は誰でしょう」
ガラッ八はとうとう考え
「まだ解らないよ」
「勇太郎じゃなしお芳でないとすると、やはり直助じゃありませんか」
「どうして、そんな見当をつけたんだ。||直助は昨夜外へ出なかったんだせ」
「でも、あの男は油断がなりませんよ」
「前の長屋で、直助兄妹は昨日の昼過ぎから外へ出ないと言ってるじゃないか。それも五人や三人の口が揃ったのじゃない、||三味線と小唄も聴えていたというし」
「でも、変じゃありませんか、親分」
「何が変なんだ」
「何となく変ですよ」
八五郎はキナ臭いものを嗅ぎ出すように鼻の穴を大きくしました。
「それはこうさ、あの直助とお辰は、兄妹じゃないんだ。俺には初めからよく判った」
「ヘエ||」
平次の言葉は予想外です。
「お前の眼にも変に映ったらしいが、兄妹でないと見破ることは出来なかった。ただ、兄という直助と、その妹というお辰の取廻しが変に見えたんだ。||川柳にはうまいのがあるよ。『それでなくてあの所作振りがなるものか||』ってね。妹があんなに兄の世話が焼けるものか。吸い付け煙草などは兄妹の仲ですることじゃないよ」
「すると」
「二人は夫婦さ」
「染吉がお辰に夢中になったのは?」
「直助が承知で釣ったんだろう。||とにかく、あの男の稼業をもっとよく知りたい。気の毒だが下っ引を四五人駆り出して、直助の身許と
「ヘエ」
ガラッ八は
それから三日目。
「大変ッ、親分」
「サア、来やがった。どこで大変を拾って来たんだ」
あわてて飛込んでくる八五郎を迎えて、平次は何やら期待にニヤリニヤリしております。
「三輪の親分が乗り込んで来て、丸山町の直助の家を根気よく家捜ししましたぜ」
「何か出たかい」
「何にも出ないから不思議で、||出たのは
「それから」
「三輪の親分もすごすごと引揚げましたよ。床下も天井も
「それっきりか」
「それっきりです。でも三輪の親分が目をつけるようじゃ油断がなりませんね」
「お前の調べはどうだ」
「直助は米相場のコの字も知りませんよ。上方で儲けたような事を言っているが、三年前江戸へ来た時は裸一貫で、それから何をするでもなく金が出来て、妹というのを呼寄せてあの豪勢な暮しが始まったそうです」
「フーム」
「あのお辰というのは恐ろしい腕で、今まであの女に釣られて出入りした男が幾人あったかわからないが、それが順々に来なくなって、近頃は染吉ともう一人、中年者の男がちょいちょい来るそうですよ」
「そんな事だろうよ」
「早くあの野郎を縛って下さいよ、親分。三輪の親分に先手を打たれちゃ
ガラッ八は一生懸命に説き立てました。
「証拠は一つもない。
「行ってみましょう、親分。ここで考えたって何にもなりませんよ」
「そうしようか」
平次はとうとう出かけました。
丸山町へ行って崖の下の方から見ると、直助の家は竹林の上に屋根だけ見せますが、竹林の中には人間の歩いた様子はなく、第一、竹林の外の
「たびたび御苦労様で||、二階から今日はよく富士が見えます。邪魔な竹の
直助兄妹が先に立って二階へ案内します。なるほど障子を開けると、
「この通り良い眺めになりました」
直助は縁側から
「このあいだ三輪の親分が来たそうだな」
「ヘエ||、家捜しには驚きました。何にもあるわけはございませんが」
直助は
その間にお辰は茶を入れて、厚切りの
「親分さん、どうぞ」
「八、昨夜の風はひどかったなア」
平次はいきなり不思議なことを言い出しました。
「ヘエ||」
「主人にお願いしてあの先を切った竹を二三本頂戴したい。風でひどく痛められたようだから、お前は近所の植木屋へ行って、親方を引っ張って来てくれ」
「ヘエ||」
何が何やら、わけも解らずに立ち上がる八五郎、それを追って、
ややしばらく、直助と平次の、気まずい対立はつづきます。一度下へ行ったお辰は、この時そっと登って来て、直助の後ろに寄り添います。
下の方へは八五郎の手が廻って、間もなく町内の植木屋が来た様子。
「どの竹を切るんですか」
そんな大きな声が聞えます。
「芯を止めた竹を切るんだ」
上から平次。
「いや、切っちゃならねエ、主人の俺が不承知だ」
いつの間にやら脇差を左手に持った直助は平次の横手から
「気が付いたか、直助」
平次は平然として、十手も出しません。
「野郎ッ」
サッと切りかける直助、引外して、平次の手から、二三枚の投げ銭が飛びます。
「あッ」
と、たじろぐ直助。それを見ると、後ろからお辰は雌豹のように飛付きます。
争いは一瞬にして決しました。平次がお辰を膝の下に敷いたとき、直助は二階の縁側から竹に飛付いて、真に猿のように、竹から竹を伝わって枳殻垣を越え、椎の樹を滑り降りて、下の往来に立ったのは、思いも寄らぬ見事な体術です。
しかし、直助にも違算がありました。往来へ飛降りると同時に、身体の備えもきまらぬところへ、
「御用ッ」
どこに隠れていたか八五郎のガラッ八、一世一代の
*
植木屋の
直助兄妹が
「今度はお前にもよく判るだろう、絵解きにも及ぶまい」
と言うと、八五郎は、
「贋金の方はそれでわかるとして、直助が染吉殺しの下手人と解ったのは?」
と訊きました。
「お辰が直助の妹でないと判った時から怪しいと思ったよ。それから、長屋の衆は三味線と小唄は聴いたが、それが直助やら、お辰やらはっきりした事は判らなかった。||もう一つ、直助の腕と身体を見て、この男なら、竹から竹に伝わって枳殻垣が越せると思ったんだ。||染吉を殺したのは、
「············」
「お辰を
「お芳は?」
「あの娘は勇太郎と一緒になるだろうよ、似合いの夫婦じゃないか。||儲けるより溜める方が早い||と言ったね、良いことを聴いたよ、俺も少し溜める気にでもなろうか。ハハ、ハッハッハッ、もっとも贋金遣いを縛った褒美の金は、八五郎が貰うことになっているよ。今度はバラ
平次は女房のお静を顧みて