「別ぴんさん勘定だよ、······こんなに多勢居る娘さんが、一人も寄り付かないのは驚いたネ、せめて、勘定だけは取ってくれよ」
とてもいい心持そう。珍々亭のスタンド前、一番人目に付こうという場所を一人占めにして、一人の老紳士が太平楽を
「ヘエ百八十五円頂戴いたします」
そういうのは、十七八の女給、
「百八十五円? それは安い、八百五十円の間違いじゃあるまいネ」
胡麻塩になった
「間違いなんかいたしません、百八十五
事面倒と見て、切口上にまくし立てる女給の前へ、かくしから掴み出した、金銀銅銭をザラリと撒いて、
「サア、この中から好きな
「アッ」
女給は驚いたわけ、その
「アラ御冗談なすってはいけませんよ。みんな、昔のおあしばかりじゃありませんか」
相手が少々甘いと見たか、若い女給さんなかなか負けません。
「これじゃいけないかネ、困った事に今日は金が無いんだ、
「いけませんよ、冗談をなすっちゃ、そうでなくてさえ、時々西洋の銀貨や、支那の銀貨を掴まされて、お帳場から叱られるんです。小判なんかで頂いたら、どんな事になるか判ったものじゃありません」
「相すまん、誠に
午後一時頃、珍々亭は人の立てこむ時刻ですから、この小喜劇は、たちまち店中の見物になってしまいました。第一、喜劇の主人公なる、この古銭蒐集家の風采が変って居ります。頭こそ
この現代人離れのした風采で、小判と天保銭を
「お立会の衆、笑ってはいけないよ、私は古銭研究会の幹事、南市太郎、雅号を愛銭堂老人という者じゃ、家へ帰ると金なんか馬に食わせるほどある、嘘だと思ったら、興信録を見なさい、こう見えたって百万長者だ、······百八十五円が何んだい······」
老人、
「御免下さい、甚だ失礼ですが······」
隣の
「な、なんですかな」
老人はぬからぬ顔をそちらへ向けます。
「甚だ失礼ですが、そのお勘定を私に立てかえさして頂けませんでしょうか」
「そ、それはいかん、あなたは見ず知らずの方じゃ、南市太郎未だ人の恵みは受けん」
「決してそういうわけでは御座いません、
「なるほど、あなたは、なかなか話がわかり相じゃ、宜しい、百八十五円、まさに拝借いたそう、抵当は天保銭が一枚、永楽銭が······」
「イヤ、それには及びません、古銭研究会の幹事をしていらっしゃるなら、
これは、南老人とは反対に、
電車に揺られ
「······そういうわけで、主人が私に遺した、ほんの少しばかりの古銭があるのです。古銭の中には、一枚何千円何万円にも取引される品があるという事は聞き知って居りますが、私はその道にかけては全くの素人で、どれが値打があるのやら、全く見当が付きません。いきなり商売人の手にかけるより、あなたのような有名な専門家に鑑定して頂いて、値打があるものなら、適当な値段でお引受け下されば、私は申すまでもなく、そう申しては失礼ですが、あなたも御便宜ではないかと思いましたので······」
「なるほど、よく解りました、そんな口には、得て大掘出しがあるもので、私共蒐集家には願っても無い機会なんで······」
電車は二人を乗せて、古い郊外の町を駆けて居ります。
「ところで、あなたの御主人というのは、一体何んという方ですかい」
思い出したように南老人は尋ねます。
「春山昇、······と申しました」
「オオ、あの富豪の春山さん、あの方なら私もよく知って居る、古銭蒐集家としても、日本での第一人者じゃ、いや大した方を御主人に持たれて幸せだ、すると何んかな、あなたは、春山氏の何に当って居るわけかな」
「執事とも、秘書とも、一切の事務を私がいたして、居りました、あの通り細かい事には、関係なさらない方で」
「そうそう、春山氏はお大名のように鷹揚な人物であったな、······ところで、その春山氏は、何ヶ月も前から、
「そうです、そのために、数ならぬ私共まで、心を痛めて居るような次第で······」
端厳な顔を伏せて、暗然と言葉を落します。雇人といっても千万長者の執事、人品骨柄さすがに立派なものです。
「ところで、春山氏の相続人はどうかな」
「それがむずかしいのです、春山氏は古銭を友に一生独身で暮し、夫人もお子様も御兄弟も何んにもありません。遠い御親類の方が二人、||一方は若い男の方で、母親と一緒に、一方は若いお娘さんで、父親と一緒に||主人の生前から同居して
「なるほど、それは御心配な事じゃ、警察の手も入った事だろうが、生きて居るとも死んだとも、その辺の事が解らないとは
「御身分の方ですから、警察も全力を傾けて探しましたが、少しも手がかりはありません。その頃の新聞で御承知でしょうが、八ヶ月前のある晩十時頃、陽子さん||これはお
「フムフム、そんな事は、なんだか新聞で読んだような気がするよ、それから······」
「一時は、財産争いの関係から、陽子さん父娘と、浩一郎さん母子に疑がかかりましたが、相続権こそ争って居りますが、どちらも立派な方で、人などをあやめるような方では御座いません、間もなく疑が晴れて、唯今では、自然と解るのを待つより外に方法が無いという事になってしまいました」
「
「アッ、申し遅れました、私は春山家の執事で、
この時電車は急にスピードを落して、停留所に入って行きました。二人は電車をおりると、郊外の横町を二つ三つ通り抜けてとある森の中の、素晴らしい大鉄門の中へ静かに入って行きました。
門を入ると左右の植こみ、その間を小半町ほど行くと西洋風の大玄関になります。
真っ直ぐに入って行くと、左右の植込から出て来た出会頭、不意を喰って、弾き飛ばされたように、玄関の両方へ立った者があります、右は美しい若い娘、左は運動家らしい恰幅のいい青年、若い二人の眼は、火の様に相撃ちます。
「あれが相続争いの当人達です。右は陽子さん、左は浩一郎さん······」
南老人の耳へ左京路之助はこうささやいてくれました。
「これ陽子、何をして居るそんな泥棒猫のような男を見るものでは無い」
植込からぬっと顔を出したのは、
「ナニ泥棒猫? それは一体誰の事だ」
青年は思わずカッとして、手に持った鞭を握りしめます。見ると長靴に乗馬服
「浩一郎さん、まあ、まあ」
南老人の後から降り立った左京路之助、青年の腕を掴むようにして、
「いつもの事に、腹を立ててはいけません、相手は老人と若い婦人では、喧嘩にもなりますまい」
「それは解って居りますが、あんまりあの老人は失礼な事を言います」
「まあまあ、そんな事は内輪同志で解決の出来ることです。今日は不思議な客をおつれしました、紹介しましょう。これは浩一郎君、こちらは南老人」
「初めて」
「宜しく」
「
三人は
この建物は、
「早速古銭をお目にかけましょうか」
「エエどうぞ」
のどから手が出るといった
「叔父は日本一、いや世界でも有名な古銭家でしたから、珍らしい高価な品を、非常に
浩一郎青年は、南老人にこんな事を話して居る内に、左京は二三百枚の古銭をガラスの箱に並べたまま持って参りました。
「どうせ、大したものはあるまいと思いますが、一応御覧下さい」
「フム、成程、手頃のがあるようじゃ、お望なら、これを皆んな求めても宜しい、······千五百円位、どうじゃな、いけなければ、もう二三百円は出しても宜しい」
「エエッそんな高価なものですか、これが?」
重厚な左京路之助も、少し面食って度を外したようです。
「もう少し無いかな」
「無い事もありません」
「いずれ、ゆっくり拝見しよう、ところで、私は、古銭の蒐集も一つの道楽だが、もう一つ変った道楽がある」
「どんなお道楽ですか」
「早く言えば、この節
「ヘエ?」
「探偵じゃよ。シャーロック・ホームスのように、警察にも解らないような大疑獄が、私にはちゃんと解るから不思議じゃ」
「ヘエ······」
「何んじゃ、疑わし相な顔をしては困るね、私の探偵能力を疑うなら、シャーロック・ホームスが、一つの帽子や時計から、持主の特性を目に見るように言い当てたように、私はあなたの身の上を言い当てて見せよう」
「私の?」
「左様、あなたの身の上、······あなたは、母親一人しか無い筈じゃ、それから、至って馬が好きじゃな、それから······」
「もう沢山、乗馬服を着て居れば、馬が好きに
「エライ、浩一郎さんの方が、私よりは又一段と名探偵じゃハッハッハッハッ」
「ハッハッハハ」
どうも、大変な自称名探偵があったもので、左京路之助も、思わず吹き出してしまいました。
間もなく三人はつれ立って、浩一郎の
この大邸宅の左翼十数室の内、四つ五つをあてがわれて、浩一郎とその母親は住んで居るのです。
「この方が探偵?」
左京執事と、息子の浩一郎に紹介されて、編物の手を休めた母親は、老眼鏡越しに南老人の顔を眺めました。
「この方があの探······」
危うく吹き出しそうになって、老女は忙しく編針を動かします。
「私がしらべて解らんという事はない」
南老人はそんな事に驚くような柄ではありません、浩一郎から借りた虫眼鏡、それを持って、四つん這いになったまま、
「南さん、主人が
左京執事に注意されて、
「な、成程」
腰を延して今更感心して居ります。
けれども、愛銭堂老人又の名素人探偵の南市太郎老人、そんな事ではなかなか
「ところで、春山氏の遺産はどうなって居るかな」
「それがおかしいのです」
左京路之助待ってましたという形で答えました。
「不動産には別に変りがありませんが、非常に沢山あるだろうと思われる、宝石、現金、有価証券などが、
「ホウ、それは驚いた」
「ところで、この邸の中は、専門家が半年に
「外に、残して置いたものや、保管してあったものは無かったかな」
「何んにも」
今まで黙って聞いて居た浩一郎は、この時二人の言を
「あります、たった一つ、あの古銭と鍵」
「それは何んです」
南老人が聞きとがめると、左京執事は引取って、
「私からお話しましょう、これは一向つまらないものですが······主人が
「フン、面白いな、浩一郎さん、その鍵というのを、
浩一郎は、母親と左京の顔を見比べましたが、別に反対する風も無いので、時計の鎖から外して、銀の小さい鍵を、南老人の手の上に載せてやりました。
「そして、これから向う側のお嬢さん
「これ浩一郎」
南老人と左京の後へついて行こうとする
「あんな場所へ行ってはいけません」
「············」
「あんな悪人の側へ行くと、ろくな事はありません、あなたはお止しなさい」
それから間もなく、南老人と左京路之助は、建物の右翼に、陽子
「この方は何んじゃ、左京君」
「古銭研究者でもあり、探偵でもある相です、南さんと
「なに探偵、何んの用があってお
「主人の
「なんだ、そんな事なら止したがよかろう。名探偵が何人となく、時間も金も惜しまずに研究して解らない事が、そういっては失礼だが、その
「ウーム」
老探偵南愛銭堂老人も、一ペンに吹き飛ばされそうです。
「帰んなさい帰んなさい」
「向う側の方は、何も
「何、何を
ベルを鳴らすと娘が出て来ます。
「この方は探偵だ相じゃ、笑っちゃ失礼だよ······、尤もこの御人体を見せて、若い娘に笑っちゃいけないという方が無理かも知れないが······ウフッ」
娘もたまらなくなって、ハンケチで顔を隠してしまいました。
南老人、そんな事は委細構わず、浩一郎
「春山氏から遺された、支那の古銭というのを拝見し度い」
というと、娘は黙って引こんで、自分の
「これを一日拝借し度いが」
「それはいかんといったら、向う側の泥棒猫を引合に出すだろう、あなたを信用するわけじゃないが、向う側より秘密主義だと思われるのが
「それは有難い」
南老人は、けろりとして、それをかくしの中に滑りこませました。が、向き直って、
「なるほど、これは美しい」
後ろ手に、床の間の一軸を拝見という格好で、何を見るかと思うと、娘の陽子の顔をつくづく眺めます。
窓から入る夕日を受けて、藤色の洋服に照り栄ゆる
「アレ············」
娘は驚いて逃げ出してしまいました。
「ハッハッハッハ、いや罪は無い、ところで左京氏、私は今晩ここへ御厄介になっても
左京執事の気乗りのしない顔、陽子の父の苦々しい顔、そんなものは、てんでこの老探偵の眼へ入りませんでした。
あくる日の正午五分前、時計の針を見つめて居た陽子は、父親へこう申しました。
「お父様、あと五分よ」
「それでは、お前やって見る気か」
「エ、エ」
「あんな変な探偵のいう事が信用出来ると思うのかい」
「少し調子は変ですけれども、あの方はどっか、不思議に人を動かすところがありますワ、私はあの方の言う事をきいて、兎も角やって見る方がいいような気がしてなりません」
「フーム」
「さあ、あと三分」
「この古銭をどうすればいいのだ」
「ピアノを
「こうか」
「
「大丈夫か」
「さあ」
父親はまだ不安相にして居りましたが、娘の決意に促されて、
「お父様、参りましょう」
「これ陽子、待った」
「イエ、私は、こうしなければ、ならないような気がいたします、あの間抜な探偵が、今朝早く私を呼び出して、こうこうしろと言った時から、私はもう、すっかり決心して居るのです」
娘の決心に励まされて、父親もすぐその後に続きました。
「大丈夫か」
「急な
その廊下を二三十間行くと、道はやや広い暗室へ入ります。湿っぽい不愉快な空気が鼻を衝いて、今にも窒息するのではないかと思われるようです。
暗室の広さは五坪程、両方に小さい入口があって、四壁は
フト気が付くと、
「お母様、大丈夫ですか」
「おお気味が悪い、何んという恐ろしい道でしょう、あんな変な探偵のいう事なんか当てになるのかい」
「サア、それは僕にもわかりません、けれども、どうも、あの探偵は、何も彼も見通して居るようで、命ぜられた通りにしなければならなかったのです」
疑うべくもない浩一郎とその母親です、そう解ると、陽子
懐中電灯で双方から照し合って、
けれども、事件は急速に発展して、それ以上に考える暇もありませんでした。間もなく、浩一郎
「
南老人の声です。
「イヤこれだけは許して下さい、ここの空気は湿っぽくて臭くてとてもかないません」
左京執事の声です。
「オオ皆様、もうおそろいでしたな、私の言う事を信じて、こんな無気味な所へ、お
三つの懐中電灯に照されて、
「
銀盆の上には
「今度は浩一郎さんの鍵を拝借······御覧下さい、······春山昇氏は、その二人の相続者達が争う事を好まれなかったのです、お解りでしょう。この鍵と古銭と、二つ揃わなければ、秘密の宝庫を開ける事は出来なかったのです、······春山氏は、浩一郎さんと陽子さんと、仲よく遺産を分配するように、この古銭と鍵を一つずつ分けて遺されたのです」
と鉄板の小さい穴に鍵を入れて、一つひねると、手に従って大鉄板は、スッと横の方に滑って隠れそのあとへ、方一間の大穴、物凄い口をパッと開けました。
「驚いてはいけませんよサア」
南老人が懐中電灯を差し向けると、中には金銀珠玉と思いの外、俯向になった人間の死体と、真黒な桶が一つ。
「アッ」
驚きとも恐れともなく陽子と母親は声をあげます。
「よく見て下さい、これが
「エッ」
「エッ」
「驚いてはいけません、春山氏を惨殺して、ここへ投げ込んだ犯人が、ここへ貯えて置いた、古銭、珠玉、金銀、有価証券、併せて五百万円程のものを奪い去ったのです」
「エッ」
「エッ」
恐怖と驚きに、ハチ切れ相に緊張した地下の闇の中に、こんな技倆があろうとも思わなかった南老人は、声さえも若やいで、明快無比の判決を下します。
「その犯人は誰です」
「よくわかって居る、死骸の側に大事な証拠が落してあった」
「誰です」
「ここに居る」
「エッ」
「それ」
指す方には、謹直無比と思われた執事の左京路之助、早くも形勢を察して、逃げ腰に南老人の方をハタと睨みます。
「エッ、老ぼれ、余計な
「知り度いか」
「ウム、これ程にたくらんだからくりを見破るのはどこの馬の骨かわからぬ古銭家の南老人ではあるまい」
「その通り」
「誰だお前は」
「
「アッ」
驚いたのは、左京路之助
「これ左京、何をウロウロする、逃げようたってもう駄目だぞ、この屋敷は、出口出口をすっかり堅めて、蟻の這出る隙間も無い······、悪党なら悪党らしく、神妙に
「フン、まだ左京路之助は降参しないぞ」
「よしよし、今の内存分に威張って置け。······どうしてわかったかというのか、
「フーム」
左京路之助、バリバリと歯がみをしましたが、サッと飛退くと、
「サア、どいつもこいつも聞け、その死体の側の桶へ入ってるのは、百ポンド余りの火薬だ。こんな時の用意にと、八ヶ月前に入れて置いたのが役に立って、最後の切り札をおれに握らせる事になったぞ。寄るな寄るな、この葉巻を持って来たのもその為めだ、こいつを桶へ投げ込むと、この建物は
火のついた葉巻をふり上げると、
「ワーッ」
四人の男女は、必死と逃げまどいましたが、元より狭い地下室、今更騒いだところで追っ付く道理はありません。
「エッ、くたばれ」
葉巻はサッと穴の中へ、しかも桶の真っ唯中へ。
「ワッ!」
這い、転げ、躍り騒ぐ男女の中に、もう一度、物凄い叫喚があがりました。
が、
「ウフ、フフフ、ハッハッハッハハハ」
花房一郎とうとう笑い出してしまいました。
「何が
「火薬は
「エッ」
しくじったりと、飛び
「エッ、世話を焼かせる」
善悪男女六人、銘々、思い思いの感動にひたり乍ら、もう一度暗い段々を辿って明るみへ出ました。外は美しい春の日の午後。
「左様なら、皆さん」
名探偵花房一郎、こう言ったまま振り向きもせず、ダブダブ服の
「どうしてあの抜路や地下の宝庫がわかったのです、せめて、それだけ聞かして行って下さい」
浩一郎が後から追っかけて聞くと、にこやかに立ち止って、
「何んでもない事ですよ、私は春山氏が
探偵は、縄付の左京を顧みてそう言いました。
が、二三歩行くと又立ち止って、
「お別れに、私はもう一言御注意したいことがあります。||さて皆さん。特にこれは老人方に聴いて頂き度い。相続争いや財産争いもこれで多分一段落でしょうが、老人方が物欲に血眼になって居る間に、若い人達の生命の泉を掘り下げて居たのです。最初私は浩一郎さんと陽子さんが、玄関で顔を見合せて居るのを見て、その眼に燃える光りは、浅ましい物欲とは似もつかぬものであることを覚りました。手っ取早く申せば、老人方が相続争いに夢中になって、互に憎み合って居る間に、若いお二人の胸には、可憐な恋が芽ぐんで、お互に慕い合って居たのです。どうぞ、お二人を一緒にして、伸よくこの春山家の財産を継がせてやって下さい、それが私の頂戴する唯一の謝礼です」
夕日を受けて、パッと鼻白む若い二人の顔を後ろに、名探偵花房一郎は、南老人の顔をそのまま、