「
そういって博士は笑いながら、長男の龍介少年を見やった。龍介君は府立第×中学の二年生で、大変に頭の良い少年だった。
「そうですね、面白いか面白くないかと
龍介は
「なる程||」博士は頷いて云った、「あの時は相手が、龍介に復讐をするためにやったのだからな。ところでヤンセンはあれから
「分りません。しかし、いまにきっと現われますよ、奴はヤンセンの
話している時、書生が入ってきて、
「龍介様にお手紙でございます」と手紙を渡した。
「誰からだろう?」
「
米国犯罪学者
「ああメトラス博士か」春田博士が傍からいった。メトラス博士」
「博士は世界中に有名な学者だよ。あの方に招待されるのは大変な名誉だぞ」
「しかし
「明日は横須賀で、父様の発明したC・C・D潜水艦の試運転があるんでしょう。だから僕、今夜は早く寝たいんですがね」
「なあに、招待されたって早く帰ってくればいいさ、ぜひお伺いするがいいよ」
博士はたいそう乗気で、熱心に龍介を勧めるのであった。龍介は
その日の夕方であった。
龍介は仲良しの
日本ホテルの角までくると、龍介は車を停めて、壮太と文子を下ろした。
「じゃ頼んだよ||」龍介はひくい声で囁いた。
「今夜の招待会は、ことによると面白いことになるかも知れないんだ。いいかね、メトラス博士の部屋は二階の五号、そらあの左から三番目の明るい窓がそうだ。よく見張っていてくれたまえ」
「よござんすとも春田さん!」
「わざと喧嘩をする奴もないが、ことによると君の拳骨を頼むかもしれないよ」龍介は笑って、妹の方へ、振り向いた。
「じゃあ文ちゃんも見張りのお
「え、大丈夫、行ってらっしゃい!」
文子は
龍介は大股にホテルの方へ急ぐ。二人は並木のかげに身をよせて、じっとメトラス博士の窓を見守るのであった。
龍介がホテルへ着くと、礼服を着た立派な三人の外国人が出迎えて、
部屋にはもう立派に食卓の準備ができていて、三人の紳士はすぐに龍介を
「しばらくどうぞ。
一人があまり上手でない日本語で云った。龍介は頷いて静かに室内を見まわした。
それから五分も経ったかと思うころ、
「メトラス博士です」先の外国人が龍介にそう告げた。龍介は椅子をたって挨拶した。メトラス博士は、らんらんと輝く鋭い
龍介は博士の眼を見て思わずぞっと
「
「僕、春田龍介です」
龍介は大声で答えた。
「私、たいへん、
博士はお世辞らしくそんなことを云った。龍介はむっつりして頷いたばかりだった。
「何もありませんが、どぞ
博士はそういって食事を勧めた。龍介は勧められるままに、博士たちと共に
食事の間皆は黙っていた。
さて食事がすむと挨拶して博士は
「春田さん、どうぞ
博士に命令された男は、叮嚀にそう云った。
「メトラス博士が、誰か
龍介は頷いて立ち上がった。そしてその男に導かれて行きながら、まさかの時にはと、ズボンのポケットへ用意してきた
男は隔ての
「どうぞ」と云って身を
龍介は隣室へ一足入った。メトラス博士は正面の大
「お入りなさい!」博士が声をかけた。
龍介はもう一足入った、とたん

「はッ!」と思って振り向いた時、さっきの三人の紳士が拳骨をさし向けてばらばらと龍介を
「畜生、やったな

龍介は喚いて一足下がった。とその時、
「動くな小僧、今度は

「あッ

「もう駄目だ、春田君。いくら君が強くったって。子供一人と我々五人じゃ喧嘩にならない、あはははは、降参したかい」
チャアリイが笑ったとたん、隙をうかがっていた龍介は飛鳥のように身を躍らしてチャアリイに跳びかかった。
そのとたんに部屋の電灯がきえた。真暗闇の中で、二発ピストルの爆音がした。
「あッ

「うーむ、うーむ」と云う
撃ったのは誰か、撃たれたのは誰か、すべては闇の中で分からない。
龍介勝つか。チャアリイ勝つか。そもそもメトラス博士とは何者か!
こちらは並木のかげに龍介の身を案じて、見張をしていた文子と
龍介がホテルへ入って行ってから三十分もしたと思うころ、注意していたメトラス博士の部屋の窓が突然暗くなったのを見た。
「どうしたんでしょう」文子が壮太に囁いた。
「停電じゃありませんか」
「だって他の窓は明るいわ!」
「そうですね、ことによると何か起ったのかも知れませんね」壮太も心配になってきた。
「行って見ましょう」
「行きましょう」
二人は大急ぎでホテルへ駈けつけた。
と、
壮太はその男達を見ると、あっといって、文子を物蔭に引き寄せて、あわてて囁いた。
「大変だ、あれは混血児のチャアリイだ、龍介さんはきっと奴等のために危険な目に会わされたのに違いない、お嬢さんはすぐお

云い終ると、その時するすると滑り出した怪しの自動車の後ろへひらりと跳びついた。
文子は街の方へ走って行って、タクシーを見つけると、それに乗って、自分の家へ急がせた。
壮太はどうしたか?
壮太は怪しい自動車の後ろに、
「やつら
気をつけて見ると、自動車は京浜国道を横浜の方へ走っているようである。
「ははあ横浜だな」呟いて、
「ははあ、ここがやつらの巣窟だな」
そう思って壮太が跳びおりる、とたんに壮太のうしろから、
「手をあげろ! 動くとぶっ放すぞ

壮太は
「野郎、あじな真似をやりやがったな、だがなアそんなことで
別の悪漢がそう云ってせせら笑った。とたんに壮太の体が逆に伸びた、と見るといつもご自慢の
「うーむ」と
「それ! やっちまえ

「来い

罵りたてた壮太、いきなり先にいる奴の衿に手がかかると、「やっ

「野郎!」と掴みかかる次の奴、引組んでおいて身を沈める。
とたん壮太の
「畜生!」と叫んだが、そのまま壮太はそこへ気絶してしまった。
謎のうちに夜が明けた。
明くれば、春田博士が長年の苦心研究によって発明した世界に誇る
昨夜、長男の龍介がメトラス博士に招待されたまま日本ホテルから行方不明になって、まだい所も知れぬので、博士の心配は並々ではなかったが、そうかといって秘密試運転を延期するわけには行かなかった。
「試運転の用意ができたから!」と云う横須賀からの電話で、ついに決心した博士は、文子に留守を頼んで、自動車で横須賀へ向った。
横須賀に着くと、すぐに海軍からは山川少将はじめ
「時間に遅れましてどうも」と博士は山川少将にいった。
「実は龍介が昨夜から行方不明になりましたので······」
「なに龍介君が?」山川少将も
話しながら博士達がランチに乗ると、沖へ向かって波を
秘密の試運転だったから外国の武官は一人もいないし、近海三十
いよいよ試運転の時がきた。
春田博士は、山川少将と共に、機関兵と乗組員を伴って潜水艦に乗りこんだ。
「万歳||ッ」という歓呼の声が駆逐艦や何艘かの海軍のランチの上からわいた。
見よ! 今こそ世界的の発明、驚くべき潜水艦C・C・Dは、動き出した、この潜水艦ひとつあれば、どんな国と戦争しても
潜水艦はしばらく海の上に姿を見せたまま、静かに波を分けて走っていたが、やがてだんだんと潜航を始めて、ついには水中に姿を消してしまった。
駆逐艦やランチから試運転を見学していた将官たちは、時計を片手に、潜水艦が
「どうしたんだろう」一人が
「なにか
皆はそろそろ心配になるので気をもみはじめた。
ついに沈んでから一時間経ったが、潜水艦はその姿を現わさなかった。と、その時である、一台の灰色の怪しい飛行艇が、南の空から飛んでくるのが見えた。
「あ、何だあの飛行艇は?」駆逐艦の将校が叫んでいる間に、怪飛行艇は
「それ

メトラス博士の室で、闇の中に強烈な格闘を始めた龍介はどうなったか。
混血児チャアリイを相手に、上になり下になりと
それから何時間経っただろう。
||ぶるるるるるる。という騒々しい物音に、ふと気がついて見ると、龍介は狭い小さな部屋に、体をかたく縛られたままころがされているのに気付いた。
「畜生、

「全体ここはどこなんだ。あのぶるぶる云っている音は、何だろう······」そう云って、ふと気がつくと、すぐ傍の壁に小さな
「あっ

「こりゃ飛行機の中だぞ······」なるほど、窓から見ると、遥に遥に下の方に光っている海が見えていた。ぶるるるると云う音は、龍介をのせた飛行機のプロペラの音だったのだ。
「畜生、飛行機などに載せやがって、全体僕をどこへ連れて行こうとするんだ」
云いいい、なおも窓から覗いていると、飛行機からなにか黒い物を落とした。見ていると黒い物は海に浮んでいる軍艦の傍へおちて、白い飛沫をあげながら爆発した。
「やっ! 爆弾だな

「やる! やる! やる!」思わず龍介は快哉を叫びながら、高射砲を射っている軍艦に万歳を叫びかけた。
その時、飛行機は、どこかに弾丸を受けたらしく、がくんと一度大きく
「あっ


横須賀の上空に突然あらわれて、爆弾を投下した灰色の怪飛行艇は、駆逐艦の高射砲に射たれて、ついに海中深く墜落した。
自動車のうしろに跳びついて川崎の海岸近く、赤煉瓦建の悪漢の巣窟へ乗りこんで、惜しくも悪漢共のとりこになった壮太はどうなったか。
頭を拳銃の尻で殴られて、一時気絶した壮太は、間もなく息を吹きかえした。見ると自分は真暗な倉庫の中に
「残念だ、やられちゃったんだな

そう云いながら、殴られて痛む頭を撫で撫で立上った。
それは煉瓦建のがらんとした部屋で、鼻を
「じゃあ骸骨島へ引上げるんでやすね?」
と云う低い声がした。壮太はぴったり壁に耳をつけて聞くと、
「そうだ、C・C・D潜水艦もぶん取ったし、春田龍介という小僧も
聞いている壮太は、驚きのあまり思わず
奴等の話では、博士の発明した潜水艦はぶん捕られたようだし、龍介さえ捕えられてしまったらしい||。
「えへへへ、そいつぁ面白いでしょうね。ところで骸骨島って云うなあ、全体どこにある島ですね!」
骸骨島! 悪漢共がC・C・D潜水艦を盗み、龍介を生埋めにしようという骸骨島とはどこに在るか? 壮太は
「うん、その骸骨島と云うのはな、それ、この地図のここに赤い線がひいてあるだろう、ここにあるんだ!」
「へえ||ですが
「そうさ、骸骨島と云うのは······」
云いかけた時、壮太があまり夢中になって身を
「誰だ


叫んだかと思うと、悪漢が立上ってくる容子、しまった

明るい室から、急に真暗なところへきたので、眼の見えなくなった隙を見て、ひらりと身を翻えした壮太、隣りの室へ跳びこんで、隔ての
見ると、机の上には一枚の地図がおいてある。
「これだ、これさえあれば龍介さんを助けられるぞ

とそこへ
「畜生め、今度ぁ負けやしねえぞ

咆えたてた壮太、跳びかかった奴を、腰車にかけて抛り投げると、傍にあった椅子を取って、電灯へ叩きつけた。
ぱっと消える電灯。暗闇の中で、あっ

それから間もなく、黒い人影が、川崎の町の方へひた走りに走っていた。
文子は、どうしたか。
壮太が龍介と混血児のあとを追っていったきり帰らないので、心配しながら何かいまにも壮太から通知があるかと待っていた。
父は横須賀へ、潜水艦の試運転をしにいって留守、書生と女中と文子だけが、邸に残っていた。
「龍兄さんはどうしたろう、
考えながら、文子が三時のお茶を飲んでいると、裏を鈴の音も高々と号外売が通った。
「ああ号外



横須賀||潜水艦||そう聞いて文子は思わず立上った。そこへ書生が号外を買って跳び込んできた。
「お嬢様大変です、先生が

「お父様がどうして

「これを読んでごらんなさい!」
差しだした号外にはこう書いてあった。

今日正午頃、横須賀沖に

「とにかく警視庁へでも、電話をおかけいたしましょう、お嬢様

書生も度を失って、あわてながら電話室へかけこんだ。と、その時電話の
文子が出ると向うは鎮守府だと云って、今潜水艦が発見されて、博士は救助されたから、さっそく文子に自動車できて貰いたいとのことだった。
「まあ、

文子は思わず
「お父様、助かったのよ。自動車を呼んで頂戴、私これからすぐ横須賀へ行くんだから!」
書生は、何がなんだかわけが分らないという容子で、まごまごしながら自動車を呼んだ。
「じゃあね、壮太が帰ってきたら横須賀へ来るように云って頂戴、よくって

そう云いのこした文子は、迎えにきた自動車で横須賀へ向った。||果して博士は救助されたのであろうか。
飛行艇と共に、海中深く墜落した龍介は、しばらくは無我夢中だった。
ふと気がついてみると、いまの墜落で、ひどく
「しめた

水面へ浮き出て見るとこは
「や! こりゃおかしいぞ!」
抜手を切って泳ぎながら、考えてみたがどうしても訳が分らない、ともかく見えている島へ泳ぎつこうと、一心に泳いだ。ところが不思議なことには、いくら泳いでも島へ近づかない、近づかないばかりではない、ぐんぐんと沖へ押し流されて行く。
「こりゃ変だぞ、うっかりすると溺れてしまうかもしれない」そう思って夢中で抜手をきったが、矢のような流れは遠慮もなく、またたく間に龍介を二三町も沖へ持って行った。
今はもう手足もなまこのように疲れきって泳ぐ元気もなくなった龍介、運を天に任せて流れのまにまに、身を漂わせるより外はなかった。
そうして猶三十分も波のまにまに流されていた時、一艘の漁船が帆を上げて、近づいてくるのを見た龍介は、はじめて勇気を
「お||い、今すぐ行くぞ||」と呼びかけ呼びかけ、帆を張った上に四挺櫓をかけて、漕ぎ寄せてきた。
かくて、漁船の上へ助けあげられた時、龍介は疲れと安心のために気絶してしまった。
それからどのくらい経ってか、龍介がふと我にかえって見ると、自分は漁師の家の炉端に寝かされていて、傍にはさっき助けてくれた漁師達が心配そうに見守っていた。
「おお、気がつきなさったかい、やれやれこれで安心しただ」老人の漁師が、ぱっちり眼を
「ああ、僕は助かったのですね」龍介は老漁師の手を握りながら、思わず涙声で叫んだ。
「有難う、有難うみなさん

「なんの礼を云うことはねえ、ところであんたはどこのお人だね?」
「僕ぁ東京の者ですが、横須賀の沖で······ついして船から落ちたのです」
「あに? 横須賀だって?」漁師は
「
「ここはお前さん房州の白浜ですじゃ、あんたは一時間ばかりの内に、
そして老漁夫は
横須賀の沖の或る地点には、土地の漁師でなければ分からぬ怪しい潮流があった。
それは干潮満潮の時に特に激しくなるもので、その潮流に乗ったが最後、どんな巨船でも海の底へ巻きこまれて、
「その
かくて、一日静養した後、龍介は何よりも家のことが気になるので、引止める漁師達の手をふり切って、東京へ急いだ。
両国駅へ着いたのは夕方で、東京の
両国から自動車を駆って、
「や


「又坊っちゃんて云ったな

「ええいッ、こんな場合に名前の事なんか考えていられるもんですか、よくまあ

「まあ、そりゃあ後でも話せる、ところで家には別に変りはなかったかい」
「変りはなかったか

「えッ? じゃなにか起ったのか」
「起ったの起らねえのって、実はね······」
とそれから壮太は、自分が誘拐されたこと、博士が潜水艦と共に行方不明になったこと、おまけに文子が「博士を救ったから横須賀へこい」という電話に釣りだされて、
さあ、これからの龍介の活躍はいかに?
「それからね、奴等は龍介さんを骸骨島の底へ生埋めにして、C・C・D潜水艦を外国の軍事探偵に売るんだといってましたぜ!」
「その骸骨島ってのは
「地図をかっ
壮太はそう云うと、先に立って家の中へ駈けこんだ。
「これですよ」そう云って、壮太は一枚の大形の軍用地図を拡げて見せた。「この赤い線の引いてある場所がそうなんだと云ってましたがね?」
「だがそこには島も何もないじゃないか」
なる程、その地図には赤い線は引いてあるが、島などは書いてなかった。
「それですよ、私が隣の部屋で聞いてましたらね、
「ふ||ん」龍介は壮太の話を聞きながら地図を見つめて深くふかくなにか考えはじめた。
「C・C・D潜水艦の行方不明······怪飛行艇······骸骨島······はてな?」
しかし、間もなく龍介は兎のように
「分かったぞ


龍介は狂気のように電話へとびついたが、横須賀の鎮守府へかけて、駆逐艦二隻、飛行艇二台、すべて戦闘準備をして、すぐ出動できるようにしてくれと頼んだ。
「さあ壮太君、大襲撃だ



壮太は
「さあ大襲撃だ、戦争だあっ

しかし一方潜水艦が発見された! 父が救助された! そう云う電話を聞いて、嬉しさの
文子は唯、一時も早く父の無事な顔が見たいものと、そればかりが待たれて自動車の中でも、心を急いていた。すると車が横浜を通り過ぎ、
「あれ! 何をするんです

びっくりして、文子が、身を起そうとするとたん、怪しい助手は虎のように文子に跳びかかって、肩を
「ああ
そう思って文子は、どうかしてのがれ出ようと身をもがいたが、鼻に当てられた
「ちびっ子のくせに骨を折らしやがった」
悪漢はそう云うと、麻酔剤の為に眠りに落ちていった文子をそこに寝かして、わめいた。
「さあ、全速力でやってくれ」
自動車は暮れかかる街道を、矢のように疾走した。
それから何時間かたった。
文子はふと我にかえった。見ると小さい真暗な部屋に唯一人寝かされている。
はね起きて、どこかに出口はないかと、手探りではい廻ると、幸い
約三十間も来たかと思うころ、文子はどこか近くで人の話声のするのを聞きつけた。立どまって耳をすますと、すぐ左にある部屋の中である。そっと身を寄せると、中の
「龍介の小僧は
「しかし小僧の代わりに妹娘をかっさらって来たから、あの小娘を
「うんそれが宜い。なんしろ、午後二時十分になれば、島の底にある三百貫の火薬が爆発する事になっているんだ。そうすればこの骸骨島も娘もあの春田博士も粉微塵よ」
「で、おいらはメトラス博士にC・C・D潜水艦を売って日本をずらかるんだ。ああ愉快だなあ、あはっはははは」
聞いていた文子は、思わずぶるぶると身顫いした。
「さては悪漢の巣窟、骸骨島に誘拐されて来たのだ。そしてメトラス博士というのは、実はC・C・D潜水艦の秘密をぬすみにきた、外国の軍事探偵だったのだ」
文子には、すべての事が分った。しかし今となってはすでになにもかもおしまいである。
兄の龍介は
「ああ神様※[#感嘆符三つ、94-16]」文子は思わず叫んでそこへ
その時である。廊下のかなたから、一人の悪漢が気違のように罵りわめきながら、駈けて来た。
「みんな大変だ





その時

横須賀沖を二艘の駆逐艦が、戦時武装をして、静かに南へ進みつつあった。
先頭に進む駆逐艦の上には、我が春田龍介少年が、双眼鏡を片手にして、艦長と共に立っていた。||空には海上の駆逐艦を護る如く、二台の飛行艇が飛んでいる。
「干潮は何時ですか?」龍介が
艦長は腕時計を見て、
「丁度二時十分前じゃ、今が一時三十分じゃから、あと二十分で干潮じゃ!」
龍介はうなずいて、例の骸骨島の地図をひろげながら、羅針盤とにらめっくらをはじめた。
駆逐艦はやがて三崎を廻って、外房州の方へ進路を向けた。
行くこと二十分、潮は丁度いま干潮の絶頂である。
地図と羅針盤を見くらべていた龍介は、やがてうなずくと共に、信号兵に一枚の伝令書を渡した、信号兵は
「例の場所へ爆弾を投下せよ!」
飛行艇は見る見る低く輪を描きはじめた。
「艦長!」龍介は艦長を
「機関砲の発射を用意させて下さい。もう直ぐやつらは現われますから」
「
この時、飛行艇の投下した爆弾は、渦巻きかえる


見る見る海上は水煙におおわれて、海水は湯のたぎるように泡立った。駆逐艦の上に砲をとるすべての人々は、今にも怪物現われるかと、
「大変だ! 大変だあっ

その中にあって、黒い覆面をした一人の外国人は声高く叫んだ。
「みんな騒ぐな、この島は海の上からは見えはしないんだ。やつらに知れるわけはない。静かにしろ

ところが、その言葉の終らぬ内に、みんなの頭上に、ずずずずずんと云う、天でも砕けるような物凄い音が起った。
「やっ!」「やっ

「外へ出ろ

「そうだ、外へ出ろ! やつらは爆弾を落している。このままここにいれば爆弾で島は崩されてしまうぞ」
と別の悪漢も叫んだ。浮足だっていた荒くれ男共は、その言葉で一遍に崩れ立って、
「わあーっ」と
覆面の外人は狼狽して声を限りに皆を止めようとしたが、その時息せき切って駈け込んで来た少年を見ると、覆面を脱いで喚いた。
「チャアリイ、
覆面をとるとそれはあのメトラス博士だった。駈け込んで来た混血児チャアリイ、
「畜生! 又あの龍介の奴です。あいつは
「よし!」メトラス博士は頷いた。
「ではあのぶん捕ったC・C・D潜水艦で
そう云うと、メトラスは先に立って、チャアリイを導いた。
駆逐艦の上では龍介が片手を挙げて、眼で海面を
「用意!」龍介が叫んだ。
見よ、海水がにわかに泡立ったと見る間に、意外


「あっ※[#感嘆符三つ、98-7]」と驚嘆の声をあげた、
とたんに島の木蔭からにょきり二門の機関砲が現われた。間一髪、龍介の片手が振下ろされる。ずずずずずんと云う響と共に駆逐艦二隻、四門の機関砲は、敵の機先を制して、一斉射撃を始めた。
敵もさる者、島影を小楯にとって、
その時、低空飛行をしていた一台の飛行艇から信号があった。




飛行艇第百号は直ちに駆逐艦の傍に着水した。それにはあの
「やあ坊っちゃん早くして下さい。あれは
「よし。では艦長、骸骨島の攻撃はお任せいたします。

「全員、総攻撃

一方飛行艇は低空飛行をしながら南に飛んだ。
「そら、あすこに見えていますよ」
飛行将校が
「そうだ、こんな速力の出る潜水艦は、春田式C・C・D号より
「爆弾を投下しましょう」
「でも、もし潜水艦に当ったら?」
「なあに大丈夫、当らないようにやります!」
将校はそう云うと、自信のある容子で、飛行艇をぐんぐん下げて、突進して行く潜水艦の鼻先でくるりと旋回しながら、爆弾を投下した。爆弾は水中深く入って爆発した。
「そら!」将校が叫んだ、「やつらは進路を変えましたよ」
なる程、鼻っ先に爆弾を喰った潜水艦は、ぐらぐらと大きく身を揺りながら、急角度に左へ舵を曲げた。
すると飛行艇は待ってましたと
かくする事五回、ついにかなわぬと思ったか、潜水艦は遂に泡を吹きながら海面へ浮び出た。
それを待っていた飛行艇、旋回し
「壮太! 来い

右手に拳銃、龍介と壮太はひらりと潜水艦に跳び移った。
鉄板をこじ明けて、二人がハッチを
「来たな小僧!」とメトラスが喚いた。
「もう駄目だメトラス、チャアリイも覚悟をしろ、今度こそは逃がさんぞ

云いざま混血児チャアリイが隠し持った拳銃を、取出すよと見る、パッ! パッ! と二発、続けさまに
「あっ! 畜生


「どうだ小僧、混血児のチャアリイ様の腕に恐れ入ったか」
そう云いながら、倒れている龍介の横腹を

「うーん!」と呻ってよろめく奴を、躍りかかった龍介。倒しもおかず続けざまに拳骨で突きのめした。
「ひどいなア坊っちゃん!」向うで壮太が声をかけた「それじゃ

かくて混血児チャアリイ、メトラス博士の二人は、
骸骨島の一味はその時、もう駆逐艦に捕らえられていた。
勿論文子と春田博士は無事に救い出されていた。
そこへC・C・D潜水艦を取戻し、メトラスとチャアリイを捕縛して龍介と壮太が帰って来たので、一同は歓呼の声をあげて、横須賀へ帰航の途についた。
皆が今しも三崎を廻ろうとしていた時、地軸も砕けるかと思う大音響がしたので、ふりかえって見ると、骸骨島のあった場所は濛々たる水煙に
「骸骨島は三百貫の火薬で粉砕された。もうあの恐ろしい
「さて、どうして僕が骸骨島の所在を知ったかと云うことですね!」と数日後、海軍の将官達や、大学の科学者の開いた、祝宴の席上で、龍介は話した。
「僕が飛行艇で墜落した時、

「えー、えーと、僕の、