世界じゅうで、眠りの精のオーレ・ルゲイエぐらい、お話をたくさん知っている人はありません!||オーレ・ルゲイエは、ほんとうに、いくらでもお話ができるのですからね。
夜になって、子供たちがまだお
オーレ・ルゲイエは、子供たちのうしろにしのびよって、首のところをそっと
さて、子供たちが眠ってしまうと、オーレ・ルゲイエは寝床の上にすわります。見れば、たいへんりっぱな身なりをしています。上着は絹でできています。でも、それがどんな色かは、お話しすることができません。というのも、オーレ・ルゲイエがからだを動かすと、それにつれて、緑にも、赤にも、青にも、キラキラ光るのですから。
ではこれから、オーレ・ルゲイエがヤルマールという小さな男の子のところへ、一週間じゅう毎晩、出かけていって、どんなお話をして聞かせたか、わたしたちもそれを聞くことにしましょう。お話はみんなで七つあります。一週間は、七日ですからね。
「さあ、お聞き」オーレ・ルゲイエは、晩になると、ヤルマールを寝床へ連れていって、こう言いました。「今夜は、きれいにかざろうね」
そうすると、植木ばちの中の、花という花が、みんな大きな木になりました。そして、長い
ところがそのとき、ヤルマールの教科書のはいっている机の引出しの中で、なにかがはげしく泣きだしました。
「おや、なんだろう?」と、オーレ・ルゲイエは言いながら、机のところへ行って、引出しをあけてみました。すると、
と、今度は、ヤルマールの習字帳の中から、とても聞いてはいられないほど、泣きわめく声が聞えてきました。そこで習字帳をあけてみると、どのページにも、全部の大文字が、縦に一列にならんでいました。その大文字のとなりには、小文字が一つずつ、ならんでいました。これはお手本の字です。けれども、またそのそばに、二つ三つ字が書いてありました。これらの字は、自分では、お手本の字に似ているつもりでいました。なにしろ、ヤルマールがお手本の字を見て書いたものだったのですから。ところが、これらの字は、
「ほら、いいかい。こんなふうに、からだを起すんだよ」と、お手本の字が言いました。「ほうら。こんなふうに、いくぶんななめにして、それから、ぐうんとはねるんだぜ」
「ぼくたちだって、そうしたいんだよ」と、ヤルマールの書いた字が言いました。「だけど、できないのさ。ぼくたち、気分がわるいんだもの」
「じゃ、おまえたちは、げざいを飲まなきゃいけないね」と、オーレ・ルゲイエが言いました。
「いやだよ、いやだよ!」と、みんなはさけぶといっしょに、さっと起き上がりました。そのありさまは、見ていておかしいほどでした。
「今夜は、お話はしてあげられないよ」と、オーレ・ルゲイエは言いました。「これから、訓練をしなければならないんだよ! 一、二! 一、二!」それから、みんなは訓練をうけました。そうすると、お手本の字のように、元気よく、まっすぐに立ちました。けれども、オーレ・ルゲイエが行ってしまって、つぎの朝、ヤルマールが目をさましたときには、みんなは、やっぱりきのうと同じように、なさけないかっこうをしていました。
ヤルマールが寝床にはいったとたん、オーレ・ルゲイエは、小さな
たんすの上には、一枚の大きな絵が、金ぶちの
オーレ・ルゲイエは、魔法の注射器でその絵にさわりました。と、たちまち、絵の中の鳥は、歌をうたいはじめ、木々の枝は風にそよぎ、雲は空を流れてゆきました。そして、雲の
さて、オーレ・ルゲイエは、小さなヤルマールを、額ぶちのところまで持ちあげてやりました。そこで、ヤルマールは、絵の中の深い草の中に足をふみいれて、そこに立ちました。お日さまが、木々の枝のあいだからヤルマールの頭の上にさしてきました。ヤルマールは湖のほうへかけていって、ちょうどそこにあった、小さなボートに乗りました。ボートは、赤と白とにぬってありました。
見るも美しいさかなが、金や銀のうろこをきらめかせながら、ボートのうしろからおよいできました。ときどき、水の上にはね上がっては、ピチャッ、ピチャッと、音をたてました。赤い鳥や青い鳥が、大きいのも小さいのも、長く二列にならんで、ボートのあとから飛んできました。ブヨはダンスをし、コガネムシはぶんぶん歌をうたいました。そして、みんながみんな、ヤルマールのあとについてこようとしました。しかも、みんな、めいめい一つずつのお話を持っててです!
なんというすばらしい船あそびではありませんか! やがて、森が深くなって、うす暗くなりました。と、思うまもなく、すぐまた、お日さまのキラキラ照っている、世にも美しい
まもなく、ヤルマールのボートは森の中をぬけました。それから大きな広間のようなところを通ったり、町の中を通りすぎたりしました。そのうちに、ヤルマールがごく小さかったころ、おもりをして、たいそうかわいがってくれた、子もり
いとしいわたしのヤルマール、
思うはあなたのことばかり!
かわいい唇 、赤い頬 、
キスしたことも、忘られぬ。
あなたのさいしょのかたことを
耳にしたのは、このわたし。
だのに、いまは会えないの。
わたしの天使のしあわせを
ひとりわたしは祈 りましょう!
思うはあなたのことばかり!
かわいい
キスしたことも、忘られぬ。
あなたのさいしょのかたことを
耳にしたのは、このわたし。
だのに、いまは会えないの。
わたしの天使のしあわせを
ひとりわたしは
すると、鳥も、みんないっしょにうたいだしました。花はくきの上でダンスをし、年とった木々はうなずきました。まるで、オーレ・ルゲイエのお話を、みんなが聞いているようでした。
まあまあ、外は、なんというひどい雨でしょう!
「ヤルマールや! 船に乗って、旅に出かけよう」と、オーレ・ルゲイエは言いました。「今夜のうちに、よその国へ行って、あしたの朝は、ここへもどってこられるからね」
そこで、ヤルマールは、さっそく晴着を着て、そのりっぱな船のまんなかに乗りこみました。すると、すぐにお天気がよくなりました。そして、船は通りを走りだしました。教会をぐるっとまわると、大きな広い海に出ました。船は、それから長いあいだ走りつづけました。もう、陸地は、かげも形も見えなくなりました。
コウノトリが、むれをつくって飛んでゆくのが見えました。コウノトリたちは、いま、ふるさとを去って、暖かい国へゆこうというのです。一羽また一羽と、一列になって飛んでいました。みんなは、今までに、とてもとても長いこと飛んできました。ですから、そのうちの一羽は、つかれきって、もうこれ以上つばさを動かして、飛んでいくことができなくなりました。その鳥は、列のいちばんおしまいを飛んでいましたが、そのうちに、みんなからずっと
船のボーイがこのコウノトリをつかまえて、ニワトリや、アヒルや、シチメンチョウのはいっている、トリ小屋の中に入れました。あわれなコウノトリは、しょんぼりして、みんなの中に立っていました。
「みなさん、ごらんなさいな!」と、メンドリたちが、いっせいに言いました。
すると、シチメンチョウは、思いきり、ぷうっとふくらんで、おまえはだれだい、とたずねました。アヒルたちはあとずさりして、たがいに
そこで、コウノトリは、暖かいアフリカのこと、ピラミッドのこと、
「うん、たしかに、こいつはばかだよ!」シチメンチョウはこう言って、のどをコロコロ鳴らしました。コウノトリは何も言わずに、ただアフリカのことばかりを心に思っていました。
「おまえさんは、きれいな細い足をしているね」と、シチメンチョウは言いました。「五十センチでいくらするんだい?」
すると、アヒルたちは、「ガア、ガア、ガア!」と、ばかにしたように、笑いました。けれども、コウノトリは、なんにも聞えないような顔をしていました。
「いっしょに笑ったらどうだい」と、シチメンチョウは言いました。「ずいぶん、しゃれたつもりなんだからな。それとも、おまえさんには低級すぎたかい。おや、おや! こいつはちっと足りないや! おれたちは、おれたちだけで、ゆかいにやろうぜ!」こう言って、クッ、クッと鳴きました。すると、アヒルたちは、「ガア、ガア、ガア!」とさわぎたてました。こうして、みんながおもしろがっているありさまは、おそろしいほどでした。
けれども、ヤルマールはトリ小屋へ行って、戸をあけて、コウノトリを呼びました。コウノトリは、ヤルマールのあとから甲板にとび出てきました。いまでは、からだも、じゅうぶんに休まりました。コウノトリは、ヤルマールにお礼を言いたそうに、うなずいているみたいでした。それから、つばさをひろげて、暖かい国へむかって飛んでいきました。ニワトリたちはクッ、クッと鳴き、アヒルたちはガアガアおしゃべりをし、シチメンチョウは顔をまっかにしました。
「あした、おまえたちをスープにしてやるぞ」と、ヤルマールは言いました。けれども、やがて目がさめたときには、いつもの小さな
「いいかね」と、オーレ・ルゲイエは言いました。「こわがっちゃいけないよ。ごらん。ここに、小さなハツカネズミがいるね」こう言いながら、かわいい、ちっちゃなハツカネズミを持った手を、ヤルマールのほうへ差しだしました。「このハツカネズミは、おまえを
「でもね、ちっちゃなネズミの穴から、どうして床下へはいっていけるの?」と、ヤルマールは聞きました。
「わたしにまかせておけば、
「うん、そうだね」と、ヤルマールが言ったとたん、もう、このうえなくかわいらしいすずの兵隊さんのように、ちゃんと軍服を着ていました。
「どうか、おかあさまの指ぬきの中に、おすわりくださいませ」と、小さなハツカネズミが言いました。「そうすれば、あたくしが引っぱってまいりますから」
「おや、お
はじめに、みんなは、床下の長い
「ここは、いいにおいが、しやしません?」と、ヤルマールを引っぱっているハツカネズミが言いました。「廊下じゅうに、ベーコンの皮がしいてあるんですのよ。こんなにすてきなことってありませんわ!」
まもなく、みんなは式場へ来ました。右側には、小さなハツカネズミの婦人たちが、ひとりのこらず立っていて、ひそひそ声で話しては、ふざけあっていました。左側にはハツカネズミの
それから、お客さまが、ますますふえてきました。とうとうしまいには、おたがいが、もうすこしで、
ハツカネズミたちは、口々に、りっぱな結婚式だった、それに、話もなかなかおもしろかった、と言いあいました。
そこで、ヤルマールも家へ帰りました。こうして、ほんとうにじょうひんな宴会に行ってきたのです。ただ、からだをちぢこめて、小さくなって、すずの兵隊さんの軍服を着ていかなければなりませんでしたが。
「ちょっと信じられないことだが、おとなの中にも、わたしにそばにいてもらいたい人が、大ぜいいるんだよ」と、オーレ・ルゲイエが言いました。「わけても、なにかわるいことをした人が、そうなんだよ。『やさしい、小さなオーレさん』と、その人たちは、わたしに言う。『ああ、どうしても
「今夜は、どんなことをするの?」と、ヤルマールはききました。
「そう、どうだね、今夜も、もう一度、結婚式へ行く気があるかい? きのうのとは、もちろんちがうけどね。おまえのねえさんは、ヘルマンという、男のような顔をした大きな人形を持っているだろう。あれがベルタという人形と結婚することになっているんだよ。それに、きょうは、この人形の
「うん、それなら、ぼくもよく知ってるよ」と、ヤルマールは言いました。「人形たちに新しい着物がいるようになると、いつもねえさんは、誕生日のお祝いか、結婚式をやらせるんだよ。きっと、もう百回ぐらいになるよ」
「そうだよ。今夜が、百一回めの結婚式なんだよ。でも、この百一回がすめば、それで、みんな、おわってしまうのさ。だから、今夜のは、とくべつすばらしいだろうよ。まあ、見てごらん」
そう言われて、ヤルマールがテーブルの上を見ると、そこには、小さな紙の家が立っていて、どの窓にも明りがついていました。そして、家の前には、すずの兵隊さんが、みんな、
歌えや、歌え! この喜び、
われら歌わん、ふたりのために!
見よや、見よ! 顔こわばらせ、楽しげに、
中に立つは、われらの革 人形!
ばんざい! ばんざい! 革人形!
われら歌わん、声高らかに!
われら歌わん、ふたりのために!
見よや、見よ! 顔こわばらせ、楽しげに、
中に立つは、われらの
ばんざい! ばんざい! 革人形!
われら歌わん、声高らかに!
それから、ふたりは贈り物をもらいました。しかし、食べ物は、みんなことわりました。だって、ふたりは愛情だけで、もういっぱいだったのですから。
「ところで、ぼくたちは、いなかに住むことにしようか、それとも、外国へでも旅行しようか?」と、花婿がたずねました。そして、たくさん旅行をしているツバメと、五度もひなをかえしたことのある、年よりのメンドリに相談してみました。すると、ツバメは、美しい、暖かい国のことを話しました。そこには、大きなブドウの
「でも、そこには、わたしたちのところにあるような、青キャベツはないでしょう」と、メンドリが言いました。「わたしは、子供たちといっしょに、いなかで、一夏をすごしたことがあるんですがね。そこには、
「だけど、キャベツなんて、どこのだっておんなじですよ」と、ツバメは言いました。「それに、ここは、ときどき、とてもひどい天気になるじゃありませんか!」
「そうですね、でもそんなことには、みんな、なれてしまっていますよ」と、メンドリは言いました。
「でも、ここは寒くって、氷もはりますよ!」
「そのほうが、キャベツにはいいんですよ」と、メンドリは言いました。「それに、ここも暖かになることだってありますわ。四年前のことですがね、夏が五週間もつづいたんですよ。あのときは、暑くて暑くて、それこそ、息をするのもやっとでしたわ! それからここには、暑い国にいるような、毒をもった動物がいませんよ。どろぼうの心配もありません。この国をどこよりも美しい国だと思わないような人は、わるい人です! そんな人は、この国にいる、ねうちがありません!」こう言うと、メンドリは泣きだしました。「わたしだって、旅行をしたことはありますよ。かごにはいって、十二マイル以上も旅をしてきたんですからね。でも旅行なんて、ちっとも楽しいものじゃありませんわ!」
「そうだわ。ニワトリの
そして、そのとおりになりました。
「さあ、お話してね」ヤルマールは、オーレ・ルゲイエに寝床へ連れていってもらうと、すぐに、こう言いました。
「今夜は、お話しているひまがないんだよ」オーレはこう言って、見るも美しいこうもりがさを、ヤルマールの上にひろげました。
「まあ、この中国人をごらん」
見ると、こうもりがさは、全体が大きな中国のお
「わたしたちは、あしたの朝までに、世界じゅうをきれいにしておかなければならないんだよ」と、オーレは言いました。「あしたは日曜日で、神聖な日だからね。わたしは、これから教会の
「もしもし、ルゲイエさん!」と、そのとき、ヤルマールの
「ありがとう、お年よりのひいおじいさま!」と、オーレ・ルゲイエは言いました。「ありがとう! あなたは、一家のお
こう言うと、オーレ・ルゲイエは、こうもりがさを持って、行ってしまいました。
「今では、自分の考えを言うこともできんのか!」と、古い肖像画が言いました。
そのときヤルマールは目がさめました。
「今晩は!」と、オーレ・ルゲイエは言いました。すると、ヤルマールはうなずきました。けれども、すぐさまとんで行って、ひいおじいさんの肖像画を、かべのほうへ向けてしまいました。こうしておかないと、またゆうべのように、口を出されて、お話が聞けなくなってしまいますからね。
「さあ、お話を聞かせて。『一つのさやに住んでいる、五つぶの青いエンドウマメの話』や、『メンドリの足に愛をささやいた、オンドリの足の話』や、『あんまり細いので、ぬい
「お話のほかにも、ためになることはたくさんあるよ」と、オーレ・ルゲイエは言いました。「ところで、今夜は、ぜひともおまえに見せたいものがあるんだよ。わたしの弟なんだがね、名前は、やっぱりオーレ・ルゲイエだよ。もっとも、弟は、どんな人のところへも、一度しかこないがね。くれば、すぐに、その人をウマに乗せて、お話を聞かせてやる。ところが、そのお話というのは、二つっきり。一つは、だれも思いおよばないような、すばらしく美しいお話、もう一つは、ぞっとするような、
そこで、オーレ・ルゲイエは、小さなヤルマールを窓のところへだき上げて、言いました。「ほら、あそこに見えるのが、わたしの弟で、もうひとりのオーレ・ルゲイエだよ。人間は、弟のことを、死神とも言っている。だけど、ごらん。絵本だと、
言われて、ヤルマールがながめると、そのオーレ・ルゲイエがウマを走らせていました。そして、若い者や、年とった者を、ウマに乗せていました。ある者は前に、また、ある者はうしろに乗せました。けれども乗せる前に、オーレ・ルゲイエは、いつもこうたずねました。
「成績表はどんなだね?」
「いい成績です」と、だれもかれもが、言いました。
「よろしい、ちょっと見せたまえ」と、オーレ・ルゲイエは言いました。
そこで、みんなは、成績表を見せなければなりません。その結果、「
「だけど、死神って、とってもりっぱなオーレ・ルゲイエだねえ!」と、ヤルマールは言いました。「ぼく、ちっともこわくないよ」
「そう、こわがることなんかないね」と、オーレ・ルゲイエは言いました。「いい成績表を、もらえるようにしさえすればいいんだよ」
「さよう、これはためになる!」と、ひいおじいさんの肖像画が、つぶやきました。「やっぱり、自分の考えを言えば、役にたつのじゃな!」こう言って、肖像画は満足しました。
みなさん! これが