あるものは、もちろん兎の方が早いさと言います。兎はあんなに長い耳を持っている。あの耳で風を切って走ったら、ずいぶん早く走れるに違いないと。
しかしまた、あるものは言うのです。いいや、亀の方が早いさ。なぜって、亀の
そう言って、議論しているばかりで、この問題はいつまでたっても、けりがつきそうもありませんでした。
そして、とうとう動物たちの間には、その議論から
「そんな
と、兎は言いました。が、彼の味方たちは一生懸命兎を説きふせて、ともかくも競走に出ることを承知させました。
「この競走は大丈夫、私の
と、亀は言いました。
亀の味方は、どんなにそれを
競走の日は、まもなくやって来ました。敵も味方も、いよいよ勝敗の決する時が近づいたので、口々に大声でどなり立てました。
「私は大丈夫勝ってみせますよ。」
と、亀はまた言いました。
が、兎は何にも言いませんでした。彼はうんざりして、ふきげんだったのです。そのために、兎の味方の
が、兎の味方は、まだだいぶたくさんありました。
「おれたちは、兎がまけるようなことは、どうしたってないと思う。あんなに長い耳を持っているんだから、勝つに違いないよ。」
彼等[#「彼等」は底本では「彼」]は、口々にそう言っていました。
「しっかり走ってくれ。」
と、亀の味方は言いました。
そして「しっかり走れ」という言葉を、
「しっかりした甲良を持って、しっかり生きている||それは国のためにもなることだ。しっかり走れ。」
彼等は叫びました。こんな言葉は、動物たちが心から亀を喝采するのでなければ、どうして言うことが出来ましょう。
いよいよ、二人は出発しました。敵も、味方も、
兎は
「
兎はそう言って、そこへ
「しっかり走れ、しっかり走れ。」
と、誰やらが叫んでいるのが
「やめてしまえ。やめてしまえ。」
と、ほかの声が言っています。「やめてしまえ」も、どうやら定り文句になってしまいました。
が、しばらくしますと、亀は兎の
「やって来たな。この亀の野郎。」
と、兎は言いました。そして、彼は
「耳の長い方がやっぱり勝つだろう。耳の長い方がやっぱり勝つだろう。おれたちの言ったことは、いよいよ文句なしに正しいということになるぞ。」
と、兎の味方は言いました。そして、あるものは、亀の味方の方をふり返って言いました。
「どうしたい。お前の方の
「しっかり走れ。しっかり走れ。」
と、
兎は、三百ヤードばかり走りつづけて、もう少しで決勝点というところへつきました。が、その時彼は、
「しっかり走れ。しっかり走れ。」
「いや、やめさせてしまえ。」
と、
「どんな用があったって、もういやなことだ。」
兎はそう言って、今度はゆっくり腰をすえてしまいました。ある人は、彼は眠ってしまったのだと申します。
それから、
「しっかり走ること、しっかりした甲良を持っていること||それが、亀の何よりのたからだよ。」
と、味方のものは言いました。
そして、それから彼等は亀のところに行って、「競走に勝った時の
すると、海亀は、
「やっぱり、お前の足が早いから、
と言いました。
そこで、彼は帰って来て、友だちにその言葉をくりかえしました。動物たちは、「なるほどそうかなア」と思って聞きました。
そこで、
が、実際はもとより兎の方が亀より早かったのです。ただ、この競走を実際に見た動物たちが、その
森の火事は、大風のある晩に突然起りました。兎だの、亀だの、その
もちろん、亀が「しっかり走って」行くうちに、森の中の動物たちは、残らず火事にやかれてしまったのであります。(イギリス)