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沢庵

北大路魯山人




 たくあんの話をしてみよう。

 今日食べたたくあんは、加賀の山代やましろでできたものである。わたしの知っているかぎりでは、山代産のたくあんが一等よいものだと思う。これは、だいこんが寒国でできたことが主なる原因だが、山代のは他のコツもあって伊勢のものとも違う。伊勢のも種類があり、いいものだが、山代のには及ばない。伊勢は産業として、大量に生産しているので、山代のようなウブなうまさはない。五十年も前には、山代のようなうまさもあったようだが、しかし、伊勢のもぬかが多いので、それだけのうまさはあるといえよう。

 山代のも、多量のぬかを使っていて、ぬかの中からたくあんを掘り出す感があるが、このようにぬかを多く使用することは、うまいたくあんを作るコツである。

 東京のたくあんの漬け方は、黄色の色素でカムフラージュされていて、うまくない。これは明らかにぬかの少ないせいだといえよう。

 ついでにいうと、やさいでも、魚でも、総じて寒帯地方のものがよい。北海道で獲れるさけ、ます、にしん、棒だらが美味であることなど、その一例である。

 一概にはいえないが、暖地で間違いないのはくだものであろう。くだもの類は概して暖地に名果ができるものである。

(昭和九年)






底本:「魯山人著作集 第三巻」五月書房

   1980(昭和55)年12月30日

初出:「星岡 38号」星岡窯研究所

   1934(昭和9)1月

入力:江村秀之

校正:木下聡

2021年3月27日作成

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