最近わが國の教育は、之れを一般的に言へば、その形式の方面にも、その内容の方面にも、著しい進歩が認められるけれども、ひとり夜間教育に於ては、その學校數及生徒數の上から見ても、その設備内容の上から見ても、未だ歐米大國に比して遜色を見る實状に在ると言はねばならない。
然るに夜間學校に通學する子弟の多くは、晝間業務に服して獨立自營能く乏しきに堪へながらも、猶研學の念に燃えて、夜間校門をくゞる健氣な青年達である。彼を思ひ、此を思ふ時に、わが國の朝野の識者が夜間教育のために助力を致され、その向上に資せられたいと願はざるを得ないのである。
殊に世の富豪が夜間教育の重大性と現實の状態とを認識されて、夜間教育に對し、夜學生に對して援助されることは、たゞに夜間教育の進展のためのみならず、社會政策の一として極めて有意義なものがあらうと思ふ。
今回文部省編纂に成る夜間實業教育史が、全國夜間甲種實業學校聯合會によつて上梓されるに當り、求めに應じて茲に一言した次第である。