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灰かぶり

グリム Grimm

矢崎源九郎訳




 あるお金持かねもちのうちで、そのうちのおくさんが病気びょうきになりました。おくさんは、もういよいよじぶんはだめだと感じましたので、ひとりむすめの小さい女の子をまくらもとによびよせて、こういいました。

「あのね、いつまでもかみさまをしんじて、すなおな心でいるんですよ。そうすれば、神さまは、いつもおまえのそばについていてくださるからね。おかあさんもおまえを天国てんごくから見まもっていて、おまえのそばをはなれませんよ。」

 おかあさんはこういって、目をつぶりました。そして、そのまま、このをさってしまったのです。

 女の子は、まい日、おかあさんのおはかのところへいっては、いてばかりいました。でも、神さまをしんじて、すなおな心でいました。

 やがて、冬になりますと、雪がそのお墓の上に白いぬのをひろげました。それから、春になって、お日さまがその布をとりのけるようになったころ、お金持ちのうちには、またべつのおくさんがきました。

 こんどのおくさんは、じぶんのむすめをふたりつれてきました。そのむすめたちは、顔だけは白くてきれいでしたが、心のなかときたら、ひねくれていて、まっ黒でした。ですから、かわいそうなままむすめの女の子にとっては、それからは、つらい日がまい日つづくことになりました。

「このあほうなガチョウむすめったら、うちんなかにすわりこんでいるよ。」

と、まま母やそのむすめたちが口ぐちにいいました。

「ごはんが食べたかったら、だれだってじぶんでかせぐんだよ。さあ、さっさといって、女中じょちゅうといっしょにおはたらき。」

 こういうと、みんなは、女の子のきていたきれいな着物きものをぬがせて、そのかわりに、ネズミ色の古ぼけたうわっぱりをきせて、木ぐつをはかせました。

「ちょいと、この高慢こうまんちきなおひめさまをごらんよ。ずいぶんおめかししたこと。」

 みんなはこうはやしたてながら、大わらいをして、女の子を台所だいどころにつれていきました。

 それからというものは、まい日まい日、女の子はつらいしごとをしなければなりませんでした。朝は日のでるまえにおきだして、水をはこび、火をもやし、ものをし、せんたくをしました。

 ところが、そういうつらいしごとがあるうえに、ねえさんたちは、つぎからつぎへと、いろんなことを考えだしては、女の子をいじめたり、ののしったりするのです。そして、わざとまめつぶをはいのなかにぶちまけては、女の子がいやでもすわって、それをひろいださなければならないようにしむけるのでした。

 一日じゅうはたらいたあとで、どんなにくたびれきっていても、ばんには、寝床ねどこにはいらずに、かまどのそばのはいのなかに横にならなければなりませんでした。ですから、この子はいつもほこりだらけで、よごれたかっこうをしていましたので、みんなはこの子のことを、「灰かぶり」「灰かぶり」とよびました。

 ある日のこと、おとうさんがいちへでかけることになりました。それで、おとうさんは、ふたりのきょうだいに、

「おみやげにはなにがほしいね。」

と、たずねました。

「きれいな着物きものよ。」

と、ひとりがいいました。

「あたしは真珠しんじゅ宝石ほうせき。」

と、もうひとりがいいました。

「ところで、はいかぶり、おまえはなにがほしいな。」

と、おとうさんがききました。

「おとうさん、それじゃ、おとうさんがかえっていらっしゃるとき、いちばんさきにおとうさんのぼうしにさわった木の小枝こえだを、おってきてちょうだい。」

 さて、おとうさんは、ふたりのままむすめのおみやげに、きれいな着物きものと、それに、真珠しんじゅ宝石ほうせきとを買いました。

 それから、馬にのってかえってきました。やがて、とある青あおとした木立こだちに、さしかかりました。すると、一本のハシバミの小枝こえだにぶっつかって、ぼうしがおちてしまいました。そこで、おとうさんはその枝をおって、もってかえりました。

 うちにかえると、おとうさんは、ふたりのままむすめに、めいめいのほしがっていたものをやりました。それから、はいかぶりには、ハシバミの小枝をやりました。

 灰かぶりはおとうさんにおれいをいって、おかあさんのおはかのところへいき、その小枝こえだをお墓の上にうえました。そして、いて泣いて泣きじゃくりましたので、なみだがはらはらとこぼれおちて、その小枝にふりかかりました。おかげで、小枝はずんずん大きくなって、美しい木になりました。

 はいかぶりは、まい日三度、その木の下へいって、泣きながら、おいのりをしました。すると、そのたびに、一の白い小鳥ことりがその木の上にとんできては、灰かぶりがほしいというものを、なんでもおとしてくれました。

 さて、お話かわって、この国の王さまが大きな宴会えんかいをもよおすことになりました。その宴会は、三日もつづくことになっていました。そして、その宴会には、国じゅうの美しいむすめたちが、ひとりのこらずまねかれていました。つまり、その人たちのなかから、王子おうじの花よめになる人をさがしだそうというわけだったのです。

 ふたりのまま子のきょうだいは、じぶんたちもその宴会えんかいにでられることになっているときかされて、大よろこびでした。それで、はいかぶりをよびつけて、

「さあ、あたしたちのかみをすいておくれ。くつもみがいておくれ。それから、しめがねむねをぎゅっとしめておくれ。あたしたちは、王さまの宴会によばれて、おしろへいくんだからね。」

 灰かぶりは、ねえさんたちのいうとおりにしてやりました。けれども、きました。むりもありません、灰かぶりだって、いっしょにいって、おどりたかったのですもの。それで、まま母に、

「あたしもいかせてください。」

と、おねがいしてみました。

「なにをいってるの、はいかぶり。そのほこりだらけの、きたならしいかっこうで宴会えんかいへいこうっていうのかい。だいいち、着物きものもくつもないのに、おどろうっていうの。」

と、まま母はいいました。

 でも、灰かぶりがしきりにおねがいしましたので、まま母もとうとう、

「それじゃ、灰のなかに、おさらに一ぱいぶんのおまめがぶちまけてあるから、それを二時間のうちにひろいなさい。そうしたら、いっしょにつれてってやるよ。」

と、いいました。

挿絵

 女の子はうら口からにわへでて、大きな声でよびました。

いバトちゃんに、山バトちゃん、それから、お空の下の小鳥ことりちゃん、みんなでここへとんできて、あたしのおまめひろいの、お手つだいをしてちょうだい。

いいお豆は つぼのなか

いけないお豆は ぶくろに。」

 その声をききつけて、たちまち、白い小バトが二台所だいどころまどからはいってきました。つづいて山バトが、いく羽もいく羽もはいってきました。そのうちに、バタバタ、バタバタ、はねの音をたてながら、空の下の鳥が一羽のこらずあつまってきて、はいのまわりにおりたちました。

 小バトたちはかわいい頭をさげて、こつこつこつとやりだしました。すると、ほかの鳥たちも、みんな、こつこつこつとやりだしました。そして、いいほうのまめつぶはひとつのこらず、おさらのなかにひろいいれました。

 こうして、一時間たつかたたないうちに、みんなは灰のなかからすっかり豆つぶをひろいだして、またおもてへとびだしていきました。

 そこで、女の子は大よろこびで、おさらをまま母のところへもっていきました。そして、これで宴会えんかいへつれていってもらえるものとばかり思っていました。ところがまま母は、

「だめだめ、はいかぶり。おまえなんか着物きものもないじゃないか。それにおどりなんてできやしないよ。みんなのわらいものになるだけさ。」

と、いうのです。

 それをきいて、女の子がわっときだしますと、まま母は、

「それじゃ、一時間のうちに、はいのなかから、おまめをふたつのおさらにいっぱいひろいだせたら、いっしょにつれてってやるよ。」

と、いいました。

 でも、はらのなかでは、

(そんなことは、とてもできっこないさ。)

と、思っていたのです。

 まま母がふたさらぶんのおまめはいのなかにぶちまけてしまいますと、女の子はうら口からにわへでて、大きな声でよびました。

いバトちゃんに、山バトちゃん、それから、お空の下の小鳥ことりちゃん、みんなでここへとんできて、あたしのお豆ひろいの、お手つだいをしてちょうだい。

いいお豆は つぼのなか

いけないお豆は ぶくろに。」

 その声をききつけて、たちまち、白い小バトが二台所だいどころからはいってきました。つづいて、山バトが、いく羽もいく羽もはいってきました。そのうちに、バタバタ、バタバタ、はねの音をたてながら、空の下の小鳥が一羽のこらずあつまってきて、灰のまわりにおりたちました。

 小バトたちはかわいい頭をさげて、こつこつこつとやりだしました。すると、ほかの鳥たちも、みんなこつこつこつとやりだしました。そして、いいほうの豆つぶは、ひとつのこらずおさらのなかにひろいいれました。

 こうして、三十分とはたたないうちに、みんなははいのなかからすっかりまめつぶをひろいだして、またおもてへとびだしていきました。そこで女の子は大よろこびで、おさらをまま母のところにもっていきました。そして、こんどこそ、宴会えんかいへつれていってもらえるものと思っていました。ところが、まま母は、

「なにをしたって、おまえはだめだよ。おまえなんかいっしょにつれていけやしない。だって、着物きものもなけりゃ、おどりもできないじゃないか。おまえをつれていったりすれば、わたしたちがはじをかくにきまっているよ。」

 こういいおわると、まま母はくるりとむこうをむいて、高慢こうまんちきなふたりのむすめをつれて、さっさといってしまいました。

 うちにだれもいなくなりますと、はいかぶりはおかあさんのおはかのハシバミの木の下へいって、大きな声でよびかけました。

ねえ ハシバミさん ゆれてうごいて

きんぎんとをおとしてちょうだいな

 すると、いつもの鳥が、金と銀の糸でった着物と、絹糸きぬいとと銀の糸でぬいとりしたうわぐつとをおとしてくれました。女の子は、おおいそぎで着物をきかえて、宴会えんかいへでかけていきました。

 でも、ねえさんたちにも、まま母にも、これがはいかぶりだとはわかりません。たぶん、どこかよその国のおひめさまだろうと思っていました。きん着物きものをきたはいかぶりはそれほど美しく見えたのです。

 三人は、これが灰かぶりだとはゆめにも考えてみませんでした。いまごろ、あの灰かぶりはうちで、きたないもののなかにすわって灰のなかからまめでもさがしているだろうと思っていたのです。

 はいかぶりのすがたを見ますと、王子おうじはさっそくむかえにでて、その手をとって、いっしょにおどりはじめました。そして、ほかのものとはだれともおどろうとはしませんでした。ですから、王子はいちどとった灰かぶりの手を、いつまでもはなしませんでした。だれかほかのものがやってきて、灰かぶりといっしょにおどりたいといっても、王子は、

「このひとはぼくの相手あいてだよ。」

と、いって、ことわりました。

 おどっているうちに、日がくれましたので、はいかぶりはうちにかえろうとしました。すると王子は、

「ぼくがいっしょにおくっていってあげよう。」

と、いいだしました。

 というわけは、王子は、この美しいむすめがどこのむすめなのか、知りたかったのです。でも、灰かぶりは王子のそばをうまくすりぬけて、ハト小屋ごやにとびこみました。

 王子がそとでっていますと、やがて、灰かぶりのおとうさんがでてきました。そこで、王子はおとうさんに、いまよそのむすめがこのハト小屋ごやにとびこんだ、と、おしえてやりました。その話をきいて、おとうさんは、

(いまはいったのなら、それははいかぶりのはずだが。)

と、思いました。

 そこで、おとうさんはおのとなたをもってこさせて、ハト小屋をまっぷたつにたたきわってみました。でも、なかにはだれひとりおりません。

 それから、みんながうちのなかへはいってきますと、灰かぶりはいつものよごれた着物きものをきて、灰のなかにねころんでいました。そしてまめランプがひとつ、煙出けむだしのなかでぼんやりともっていました。つまりそれは、こういうわけだったのです。灰かぶりは、ハト小屋のなかにとびこみましたが、すばやく小屋のうしろからとびだして、あのハシバミの木の下へかけていったのでした。そこで、きれいな着物きものをぬいで、おはかの上におきますと、いつもの鳥がそれをどこかへもっていってしまったのでした。いっぽう、灰かぶりは、それから、ネズミ色のいつものうわっぱりをきて、台所だいどころへはいって、灰のなかにもぐりこんでいたのです。

 そのつぎの日にも、また宴会えんかいがもよおされました。おとうさんとおかあさんと、それに、ふたりのねえさんたちがでかけてしまいますと、灰かぶりは、さっそく、ハシバミの木のところへいって、よびかけました。

ねえ ハシバミさん ゆれてうごいて

きんぎんとをおとしてちょうだいな

 すると、いつもの鳥が、きのうよりも、ずっとずっとりっぱな着物きものをなげおとしてくれました。はいかぶりがこの着物をきて、宴会えんかいせきにあらわれますと、だれもかれもがその美しさにあっとおどろいてしまいました。

 ところで、王子おうじは、灰かぶりのくるのをずっとっていました。ですから、灰かぶりのすがたを見ますと、すぐにその手をとって、灰かぶりとばかりおどりつづけました。だれかほかのものがやってきて、灰かぶりといっしょにおどりたいといっても、王子は、

「これはぼくの相手あいてだよ。」

と、いって、ことわりました。

 そのうちに、日がくれましたので、はいかぶりはうちにかえろうとしました。すると、王子はあとからついていって、灰かぶりがどこのうちにはいるか見ようとしました。

 ところが、灰かぶりは、王子のそばからすばやくにげだして、うちのうしろのにわのなかにとびこみました。

 庭には美しい大きな木が一本はえていて、それには、まことにみごとなナシのがなっていました。はいかぶりはリスのようにすばしこく、この木によじのぼって、たちまち、えだと枝とのあいだにかくれてしまいました。そのため、王子おうじには、灰かぶりがどこへいってしまったのやら、わからなくなりました。

 でもそこでっていますと、やがて、はいかぶりのおとうさんがやってきました。そこで、おとうさんに、王子おうじはいいました。

「よそのむすめが、ぼくのところからにげだして、あのナシの木の上にとびあがってしまったらしい。」

 それをきいて、おとうさんは、

(木の上にとびあがったのなら、それははいかぶりのはずだが。)

と、思いました。

 そこで、おのをもってこさせて、その木を切りたおしました。けれども、木の上にはだれもいませんでした。

 それから、みんなが台所だいどころにはいってきますと、灰かぶりは、いつものように、灰のなかにねころんでいました。

 じつをいうと、それはこういうわけなのです。つまり、灰かぶりは木のむこうがわにとびおりて、ハシバミの木の上のいつもの鳥に、きれいな着物きものをかえしておいて、じぶんは、ネズミ色のいつものうわっぱりにきかえていたのでした。

 三日めにも、おとうさんとまま母が、ねえさんたちをつれてでかけてしまいますと、はいかぶりは、またおかあさんのおはかのところへいって、ハシバミの木によびかけました。

ねえ ハシバミさん ゆれてうごいて

きんぎんとをおとしてちょうだいな

 すると、いつもの鳥が着物きものをなげおとしてくれました。ところが、その着物ときたら、目もさめるように美しくて、きらびやかで、それこそ、まだだれもきたことのないようなものでした。それに、うわぐつはぜんぶきんでできているというすばらしさです。

 ですから、はいかぶりがこの着物をきて、宴会えんかいせきへあらわれたときには、だれもかれもが、ただただおどろきあきれるばかりで、なんといったらいいのか、わからないくらいでした。

 王子おうじは、灰かぶりとばかり、ずっとおどりつづけました。だれかがやってきて、灰かぶりといっしょにおどりたいといっても、王子は、

「このひとはぼくの相手あいてだよ。」

と、いって、ことわりました。

 そのうちに、日がくれましたので、はいかぶりはかえろうとしました。もちろん、王子はあとからついていくつもりでした。ところが、灰かぶりがあんまりすばやくにげてしまいましたので、とうとう、あとからついていくことができませんでした。

 でも、王子は、きょうは計略けいりゃくをめぐらして、階段かいだんじゅうにチャンというべたべたするくすりをぬらせておきました。そのため、灰かぶりが階段にとびおりたとたん、左の上ぐつがべったりとチャンにくっついて、そのままあとにのこってしまいました。

 王子がそのくつをとりあげてみますと、それはちっちゃくて、きれいで、ぜんぶ金でできていました。

 そのつぎの朝、王子おうじはそのくつをもって、あの金持かねもちの男のところへいきました。そして、

「このきんのくつがぴったり足にあう女を、ぼくはつまにしたいのだ。」

と、いいました。

 それをきいて、ふたりのきょうだいはよろこびました。だって、ふたりともきれいな足をしていましたからね。

 まず、ねえさんのほうが、そのくつをもってへやのなかにはいり、ためしてみようとしました。まま母もそのそばに立っていました。

 ところが、足の指が大きすぎるために、どうしてもはいりません。だいいち、くつぜんたいが小さすぎます。そのようすを見て、まま母はほうちょうをわたしながら、

「足の指なんか、切ってしまいなさいよ。おきさきさまになれば、もう足で歩くこともなくなるからね。」

と、いいました。

 むすめは足の指を切りおとして、くつのなかに、むりやりに足をおしこみました。そして、いたいのをやっとがまんしながら、へやをでて、王子おうじのところへいきました。

 そこで、王子はこのむすめを花よめとして馬にのせ、いっしょにそこをでかけました。ところが、ふたりは、あのおはかのそばをとおっていかなければなりませんでした。すると、ハシバミの木にとまっていた二のハトが、

ちょいとうしろを見てごらん

ちょいとうしろを見てごらん

くつのなかはがいっぱい

だってくつがちいちゃすぎるもの

ほんとのよめさん うちにいる

と、よびかけました。

 こういわれて、王子おうじがむすめの足もとを見ますと、なるほど、血がそとまでながれでています。

 王子はすぐさま馬のむきをかえて、にせの花よめを、またうちへつれていきました。そして、

「このむすめはほんものではないから、もうひとりのきょうだいにくつをはかせてみなさい。」

と、いいました。

 そこで、こんどは、妹のほうがへやのなかにはいりました。うまいぐあいに、足の指はくつのなかにはいりましたが、かかとが大きすぎます。そのようすを見ますと、まま母がほうちょうをわたして、いいました。

「かかとのすこしぐらい、切ってしまいなさいよ。おきさきさまになれば、もう足で歩くこともなくなるからね。」

 むすめはかかとをすこし切りとって、くつのなかに、足をむりやりにおしこみました。そして、いたいのをやっとがまんしながら、へやをでて、王子おうじのところへいきました。

 そこで、王子はこのむすめを花よめとして馬にのせ、いっしょにでかけていきました。ふたりがハシバミの木のそばをとおりかかりますと、木のえだにハトが二とまっていて、

ちょいとうしろを見てごらん

ちょいとうしろを見てごらん

くつのなかはがいっぱい

だってくつがちいちゃすぎるもの

ほんとのよめさん うちにいる

と、うたいました。

 いわれて、王子がむすめの足を見おろしますと、なるほど、くつから血がながれでて、しかも、白いくつしたが上のほうまでまっかにそまっています。

 そこで、王子はすぐさま馬のむきをかえて、にせの花よめをまた家へつれていきました。

「このむすめもほんものではない。もう、ほかにむすめはないのかね。」

と、王子はいいました。

「ございません。」

と、お金持かねもちの男がいいました。

「もっとも、なくなりました家内かないがのこしていったむすめがひとりおりますが、これは発育はついくもおくれておりまして、いつもはいだらけのきたないかっこうをしております。とても、花よめになれるようなものではございません。」

 すると、王子おうじは、

「そのむすめをここへつれてきなさい。」

と、いいました。

 ところが、まま母は、

「まあ、とんでもないことでございます。とてもきたなすぎて、こちらへつれてまいれるようなものではございません。」

と、もうしました。

 けれども、王子がどうしても見たいというので、とうとう灰かぶりがよびだされることになりました。それで、灰かぶりは、まず両手と顔とをきれいにあらいました。それから、でてきて、王子のまえでおじぎをしました。

 王子は灰かぶりにきんのくつをわたしました。そこで、灰かぶりは足台あしだいにこしかけて、おもたい木ぐつから足をぬきだして、うわぐつにいれてみました。ところが、どうでしょう。くつはぴったりと灰かぶりの足にあっています。

 それから、灰かぶりは立ちあがりました。王子がその顔を見ますと、それこそ、じぶんといっしょにおどった、あの美しいむすめではありませんか。それで、王子は思わず大きな声をだして、

「これがほんとうの花よめだ。」

と、いいました。

 まま母とふたりのきょうだいは、びっくりしました。そして、くやしさのあまり、まっさおになりました。

 けれども王子おうじは、そんなことにはおかまいなく、はいかぶりを馬にのせて、いっしょにでかけました。ふたりがハシバミの木のそばをとおりかかりますと、二の白いハトが声をそろえて、

ちょいとうしろを見てごらん

ちょいとうしろを見てごらん

くつのなかにはがないよ

くつはちいちゃすぎないもの

こんどは ほんとの花よめつれていく

と、うたっていました。ハトは、こううたってから、二羽ともまいおりてきて、はいかぶりのかたの上にとまりました。一羽は右に、一羽は左に。そして、そのまま、ずっとそこにとまっていました。

 いよいよ灰かぶりと王子との婚礼こんれいがおこなわれることになりました。そのとき、にせの花よめになった、ふたりのきょうだいがやってきて、さかんにおせじをふりまきました。こうして、ふたりは灰かぶりのしあわせを、わけてもらおうと思ったのです。

 花よめ、花むこが教会きょうかいへいくときには、ねえさんのほうは右がわに、妹のほうは左がわにつきそって歩いていきました。すると、二のハトがとんできて、きょうだいの目玉を、ひとつずつ、つつきだしてしまいました。

 それから、式がすんででてきたときには、ねえさんのほうは左がわに、妹のほうは右がわにつきそっていました。すると、二羽のハトが、きょうだいのもうひとつずつのこっている目玉をつつきだしました。

 こんなわけで、ふたりのきょうだいは、いじわるをしたり、にせの花よめになったりしたばちがあたって、一生いっしょう目が見えませんでした。






底本:「グリム童話集(1)」偕成社文庫、偕成社

   1980(昭和55)年6月1刷

   2009(平成21)年6月49刷

※表題は底本では、「はいかぶり」となっています。

入力:sogo

校正:チエコ

2021年8月28日作成

青空文庫作成ファイル:

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