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三本の金の髪の毛をもっている鬼

グリム Grimm

矢崎源九郎訳




 むかし、あるところに、ひとりのまずしい女がおりました。この女があるときひとりの男の子を生みましたが、その子は頭に〈(1)ふくかわ〉をかぶって生まれてきました。それで、この子は十四になったら、王さまのおひめさまをおよめさんにもらうだろう、という予言よげんをしたものがありました。

 それからまもなくのこと、王さまがこの村にやってきました。けれども、それが王さまだとは、だれひとりゆめにも知りませんでした。王さまは、なにかかわったことはないかと、村の人たちにたずねました。すると、みんなはこたえて、こういいました。

「さいきん、ふくかわをかぶった子どもが生まれました。こういう子どもは、なにをやってもいいうんにめぐまれているものです。じっさい、その子についても、十四になったら、王さまのおひめさまをおよめさんにもらうだろう、という予言よげんをしたものもあるんですよ。」

 王さまはその予言のことをきいて、ひどくはらをたてました。しかし、もともと腹黒はらぐろい人でしたから、その子のおとうさんとおかあさんのところへいって、いかにもしんせつそうなふりをして、こういいました。

「どうだろう、あんたがたはまずしいようだが、その子どもをわたしにくれないかね。わたしがめんどうをみてやるよ。」

 はじめのうちは、おとうさんもおかあさんもことわりました。けれども、その見知らぬ人が子どもをもらうかわりにといって、たくさんのおかねをさしだしたものですから、ふたりは、

(これはふくの子だ。どっちみち、いいうんにめぐりあうにちがいない。)

と、考えて、とうとう承知しょうちしてしまいました。そして、子どもを王さまにわたしたのです。

 王さまはその子をはこのなかにいれました。そして、それをもって馬をすすめていきますと、そのうちに、とあるふかい川にでました。すると、王さまはその箱を川のなかにほうりこんでしまいました。そして、

(これで、思いもよらないやつにひめをやらなくてもすんだわけだ。)

と、心のなかで思いました。

 ところが、そのはこはしずまないで、小舟こぶねのように、ぷかぷかうかんでいきました。そして、なかには水一てきはいりませんでした。

 こうして、箱は王さまのみやこから二マイルほどはなれている水車小屋すいしゃごやのところまでながれていって、そこのせきにひっかかって、とまりました。

 うんよく、そこに立っていたこなひきの小僧こぞうがそれを見つけて、とびぐちでもってひきよせました。小僧こぞうは、すばらしいたからものを見つけたと思いました。ところが、はこをあけてみますと、どうでしょう、なかには、きれいな男の子がはいっているではありませんか。男の子は、みるからに元気よく、ぴちぴちしていました。

 小僧こぞうはこの子をこなひきの夫婦ふうふのところへつれていきました。すると、粉ひきの夫婦には子どもがなかったものですから、ふたりは、

「この子は、かみさまからさずかったのだ。」

と、いいました。

 夫婦はこの子をだいじにそだてました。やがて、子どもは大きくなって、りっぱな若者わかものになりました。

 あるひどいあらしのとき、王さまがこの水車小屋すいしゃごやにたちよったことがありました。王さまは粉ひきの夫婦にむかって、この大きな子どもはおまえたちの子どもか、とたずねました。

「いいえ、これはすて子でございます。」

と、夫婦はこたえていいました。

「じつは、いまから十四年ほどまえに、はこにいれられて、せきにながれつきましたのを、こなひきの小僧こぞうが水からひきあげたのでございます。」

 それをきいて、王さまは、これこそ、むかしじぶんが川になげこんだふくの子にちがいない、と気がつきました。そこで、

「これ、おまえたち、この子どもにきさきのところへ手紙てがみをとどけさせてはくれまいか。ほうびには金貨きんかを二まいつかわすが。」

と、いいました。

「かしこまりました。」

 夫婦ふうふのものはこうこたえて、子どもにしたくをするようにいいつけました。

 王さまはお妃さまに手紙を書きました。ところがその手紙には、

「この手紙をもった子どもがしろへついたら、ただちにころして、うめてしまえ。それも、わしがもどらぬうちに、すっかりかたづけてしまえ。」

と、書いてあったのです。

 男の子はこの手紙をもってでかけましたが、とちゅうで道にまよってしまって、日がくれてから、とある大きな森のなかにはいりこみました。

 まっくらやみのなかに、ポツンと小さなあかりが見えました。そこで、男の子はそれをめあてに歩いていきますと、小さな家のまえにでました。

 家のなかへはいってみますと、おばあさんがたったひとりばたにすわっていました。おばあさんは男の子のすがたを見ますと、びっくりして、いいました。

「おまえはどこからきたのだい。で、これからどこへいくんだね。」

「ぼくは水車小屋すいしゃごやからきたんです。」

と、男の子はこたえました。

「おきさきさまのところへ手紙てがみをとどけにいくとこなんです。だけど、森のなかで道にまよっちゃったから、今夜はここにとめてもらいたいんです。」

「かわいそうに。」

と、おばあさんはいいました。

「おまえは、どろぼうのうちにまよいこんだんだよ。いまにみんながかえってくれば、おまえはころされちまうよ。」

「どんなやつがきたって、ぼくはこわかあありません。ぼくはもうくたびれちゃって、これいじょう、ひと足も歩けないんです。」

 男の子はこういうと、こしかけの上に手足をのばして、そのまま、ぐうぐうねこんでしまいました。

 それからまもなく、どろぼうたちがかえってきました。どろぼうたちはぷんぷんはらをたてて、そこにねている小僧こぞうは、いったいどこのどいつだ、とたずねました。

「ああ、そりゃあ、つみのない子どもだよ。」

と、おばあさんがいいました。

「森んなかで道にまよってたから、かわいそうになって、わたしがとめてやったんだよ。おきさきさまのとこへ手紙をもっていくんだとさ。」

 さっそく、どろぼうたちは手紙てがみふうを切って、読んでみました。すると、この子がおしろへつきしだい、ただちにいのちをとってしまえ、と書いてあるではありませんか。なさけ知らずのどろぼうたちも、これを見ると、さすがにかわいそうになりました。

 そこで、どろぼうのかしらはその手紙をやぶいて、べつに手紙を書きました。それには、この子どもがお城へつきしだい、ただちにおひめさまと結婚けっこんさせるように、と書いておきました。

 どろぼうたちは、あくる朝まで、男の子をこしかけの上にしずかにねかせておいてやりました。そしてつぎの朝になって、男の子が目をさましたとき、みんなは男の子に手紙をわたして、おしろへいく道をおしえてやりました。

 おきさきさまはこの手紙をうけとって、それを読みますと、なかに書いてあるとおり、すぐにりっぱな婚礼こんれいのしたくをいいつけました。こうして、おひめさまはふくの子のおよめさんになったのです。福の子は心のやさしい、美しい若者わかものでしたから、お姫さまは心から満足まんぞくして、ふたりでたのしくくらしていました。

 しばらくたって、王さまがおしろへかえってきました。王さまは、予言よげんのとおりに、福の子がお姫さまをおよめさんにしているのを見ますと、

「これはどうしたことだ。わしは手紙に、まるでちがった命令めいれいを書いておいたはずだが。」

と、いいました。

 すると、お妃さまはその手紙を王さまにわたして、

「ごじぶんで、なかに書いてあることをお読みになってごらんなさいませ。」

と、いいました。

 王さまはその手紙てがみを読んで、はじめて、それがじぶんの書いたのとすりかえられたものであることに気がつきました。そこで、王さまはふくの子に、じぶんのたのんだ手紙はどうなったのか、どうしてまた、かわりにべつの手紙をもってきたのか、と、たずねました。

「わたしはなんにも知りません。」

と、ふくの子はこたえていいました。

「わたしが森のなかでねたばんに、きっとすりかえられたにちがいありません。」

 王さまはかんかんにおこって、いいました。

「そうやすやすと、おまえにうまくやられてたまるものか。わしのむすめがほしいものは、地獄じごくからおにの頭のきんかみを三本とってこなければならんのだ。わしののぞみのものをもってくれば、むすめはそのままおまえのつまにしておいてよろしい。」

 王さまとしては、これでこの若僧わかぞういはらうことができると思ったのです。

 ところが、ふくの子はこたえました。

「おのぞみのきんかみは、かならずとってまいります。おになんか、すこしもこわくはありません。」

 こうして、福の子はわかれをつげて、たびにでかけました。

 ふくの子がずんずん歩いていきますと、やがて、とある大きな町にきました。町の門のところで、番人ばんにんが、おまえはどんなしょくをこころえているか、どんなことを知っているか、と福の子にたずねました。すると、福の子は、

「なんでも知ってるよ。」

と、こたえました。

「そいつはありがたいな。」

と、番人はいいました。

「じつは、この町の井戸いどから、いままではさけがわきでていたんだが、そいつがいまではすっかりかれちまって、水さえもでないしまつなんだ。どうしたわけだか、おしえてもらえないかね。」

「おしえてあげるよ。だが、わたしがかえってくるまで、っていたまえよ。」

と、福の子はいいました。

 こういって、福の子はずんずん歩いていきました。やがて、またべつの町の門のまえにきました。ここでもまた、門番もんばんが、おまえはどんなしょくをこころえているか、どんなことを知っているか、と、たずねました。

「なんでも知ってるよ。」

と、福の子はこたえました。

「そいつはありがたいぞ。じつは、この町に一本の木があるんだが、いままではその木にきんのリンゴがなっていたのに、いまじゃ葉っぱ一まいでないありさまなんだ。どういうわけだか、ひとつおしえてもらいたいね。」

「おしえてあげるよ。だが、わたしがかえってくるまでっていたまえ。」

 ふくの子はこういって、またさきへいきました。そのうちに、とある大きな川のところにでましたが、この川はどうしてもわたらなければなりません。ここでもわたもりが、おまえはどういうしょくをこころえているか、なにを知っているか、と、福の子にたずねました。

「なんでも知ってるよ。」

と、福の子はこたえました。

「そいつはうれしいな。」

と、わたもりがいいました。

「おれは、年がら年じゅういったりきたりして、人をわたしてばかりいるんだが、どうしてかわりがこないのか、そのわけをおしえてもらいたい。」

「おしえてあげるよ。だが、わたしがかえってくるまでっていたまえ。」

と、福の子はいいました。

 この川をわたりますと、いよいよ地獄じごくの入り口が見つかりました。地獄のなかはまっ黒で、すすけていました。おにはちょうどるすでしたが、鬼のおかあさんが大きな安楽あんらくいすにこしかけていました。

「なんの用だい。」

と、おにのおかあさんはふくの子にたずねました。けれども、このひとは、そんなにたちがわるいようには見えませんでした。

「ぼくは、鬼の頭のきんかみが三本ほしいんです。でないと、およめさんをぼくのものにしておけないんですもの。」

と、福の子はこたえました。

「そりゃあまた、たいへんなのぞみだね。」

と、おにのおかあさんがいいました。

「鬼がかえってきて、おまえを見つけようもんなら、おまえは、たちまちやっつけられちまうよ。だが、おまえがかわいそうだから、なんとかおまえをたすけてやるようにするよ。」

 鬼のおかあさんはこういって、福の子をアリのすがたにかえてしまいました。そして、

「わたしのスカートのひだのなかにはいこんでいな。そうしていりゃ、だいじょうぶだよ。」

と、いいました。

 ええ、と、福の子はこたえていいました。

「それでけっこうなんですが、まだ三つほど知りたいことがあるんです。いままでおさけのわきでていた井戸いどが、すっかりかれてしまって、水一てきでないというのは、どうしてなんですか。いままできんのリンゴがなっていたのに、いまでは葉っぱ一まいでないというのは、どうしてなんですか。それから、わたもりが年がら年じゅういったりきたりして、ひとをわたしているのに、かわりの人がさっぱりこないというのは、どうしてなんですか。」

「そいつはむずかしい問題もんだいだね。」

と、おにのおかあさんがいいました。

「だがまあ、うごかずにじっとしておいで。そして、わたしが鬼の頭からきんかみを三本ひきぬくときに、鬼がなんていうか、よく気をつけてきいているんだよ。」

 日がくれてから、鬼がかえってきました。鬼はうちのなかへはいるかはいらないうちに、なかの空気がすんでないことに気がつきました。

「くさいぞ、くさいぞ、人間のにくくさいぞ。なんだかへんだぞ。」

と、おにがいいました。

 それから、鬼はへやのすみからすみまでのぞいてさがしまわりましたが、なんにも見つかりませんでした。それを見て、鬼のおかあさんが鬼をしかりつけて、いいました。

「たったいま、そうじしたばっかりだよ。せっかくひとが、すっかりかたづけておいたのに、またおまえがごちゃごちゃにしてしまう。おまえのはなにゃ、しょっちゅう人間の肉のにおいがくっついているんだよ。さあ、すわってゆうはんでも食べな。」

 おにはごはんを食べたりおさけをのんだりしてしまいますと、つかれがでてきて、頭をおかあさんのひざの上にのせました。そして、シラミをすこしとってくれ、といいました。

挿絵

 しばらくすると、おにはうとうとしてきて、やがて、ぐうぐういびきをかきはじめました。そのようすを見て、鬼のおかあさんはきんかみを一本つかんで、ぐいとひきぬいて、じぶんのそばにおきました。

「おう、いてえ。なにをするんだい。」

と、おにがさけびました。

「いまね、いやなゆめを見たんだよ。」

と、鬼のおかあさんがこたえました。

「それで、思わずおまえのかみをつかんだのさ。」

「いったい、どんな夢を見たんだい。」

と、鬼がたずねました。

「ある町の市場いちば井戸いどの夢だったよ。いままではさけがわきでていたのに、それがかれちまって、水さえもでなくなっちまったんだよ。どうしたわけなんだろうね。」

「へへん、あいつらにわかってたまるもんか。」

と、おにはこたえました。

「その井戸のなかの石の下に、ヒキガエルが一ぴきいるのさ。そいつをころしさえすりゃあ、また酒がわいてくるんだ。」

 鬼のおかあさんは、また鬼の頭のシラミをとりはじめました。そのうちに、鬼はまたもやねむりこんで、まどもふるえるような、ものすごいいびきをかきはじめました。そこで、おにのおかあさんは、鬼の頭から二本めのかみをひきぬきました。

「うわあ。なにをするんだい。」

 鬼はかんかんにおこって、どなりました。

「わるく思わないでおくれ。ゆめを見てやったことなんだから。」

と、鬼のおかあさんはこたえました。

「こんどは、どんな夢を見たんだ。」

と、鬼がたずねました。

「ある王さまの国にはえている、くだものの木のゆめなんだがね、その木にはいままでずうっときんのリンゴがなっていたのさ。それが、いまじゃ葉っぱ一まいでやしないんだよ。どうしたわけなんだろうね。」

「へへん、あいつらにわかってたまるもんかい。」

と、鬼はこたえていいました。

「その木のっこをネズミがかじっているからさ。そのネズミをころしちまや、また金のリンゴがなるようになる。だけど、このままネズミがかじっているようだと、いまにその木はすっかりかれちまわあ。ところでおっかさん、もうゆめを見るのはやめにして、おれをねかしてくれよ。こんど、おれのねているじゃまをしたら、横っつらをぶんなぐるぜ。」

 おにのおかあさんはうまく鬼をなだめて、またシラミをとりはじめました。そのうちに、鬼はまたもやねむりこんで、ぐうぐうものすごいいびきをかきはじめました。

 そこで、鬼のおかあさんは、鬼の頭から三本めのきんかみをつかんで、ひきぬきました。

 鬼はびっくりしてとびあがり、わめきながら、おかあさんにらんぼうしようとしました。けれども、おかあさんはもういちど鬼をなだめて、いいました。

「こんないやなゆめを見たんだもの、しかたがないじゃないか。」

「いったい、どんな夢を見たんだい。」

と、おにはたずねました。やっぱり、鬼もききたかったのです。

わたもりの夢なんだがね、その渡し守は、かわりがこないものだから、年がら年じゅういったりきたりして、ひとをわたさなければならないって、ぶつぶつもんくをいってるのさ。どういうわけなんだろうねえ。」

「へーん、ばかな野郎やろうだなあ。」

と、おにはいいました。

「だれかがやってきて、むこうへわたしてくれといったら、そいつの手にさおをにぎらせちまやいいんだ。そうすりゃ、こんどはそいつがひとをわたさなけりゃならなくなって、じぶんは自由じゆうになれるんだ。」

 こうして、鬼のおかあさんはきんかみも三本ぬいてしまいましたし、それに三つの問題もんだいのこたえも話させてしまいましたので、こんどは、このばけものをそのままそっとねかせておいてやりました。それで、おにのあけるまで、ぐっすりねこみました。

 鬼がふたたびでかけてしまいますと、鬼のおかあさんはスカートのひだからアリをとりだして、このふくの子をもとの人間のすがたにもどしてやりました。

「そら、この三本のきんかみをやるよ。」

と、鬼のおかあさんがいいました。

「それから、おまえの三つの問題もんだいにたいして、鬼がなんていったか、よくきいていたろうね。」

「ええ、きいてましたよ。よくおぼえておきます。」

と、福の子はこたえました。

「これで、おまえをたすけてやったわけだから、ぼつぼつでかけたらどうだい。」

と、鬼のおかあさんがいいました。

 福の子は鬼のおかあさんに、こまっているところをたすけてもらったおれいをくりかえしいって、地獄じごくをたちさりました。そして、なにもかもが、じつにうまくいきましたので、福の子は大よろこびでした。

 わたもりのところまできますと、渡し守は約束やくそくのへんじをきかしてくれ、といいました。

「まずわたしを、むこうへわたしてくれ。」

と、福の子はいいました。

「そうすれば、どうしたらおまえが自由じゆうになれるかをおしえてやるよ。」

 むこう岸へつきますと、ふくの子はおにのいったことをそのままおしえてやりました。

「こんどだれかがやってきて、むこうへわたしてくれといったら、その男の手にさおをにぎらせてしまや、それでいいんだよ。」

 福の子はずんずん歩いていきました。やがて、のならなくなった木のはえている町へきますと、ここでも番人ばんにんが、福の子のへんじをっていました。そこで福の子は、おにからきいたとおりのことを話してやりました。

「その木のっこをかじっているネズミをころしなさい。そうすれば、またきんのリンゴがなるよ。」

 これをききますと、番人は福の子にありがとうございます、といって、おれいのしるしに、金貨きんかを山とつんだ二ひきのロバをくれました。ロバは福の子のあとからついてきました。

 いちばんおしまいに、井戸いどのかれてしまった町にきました。ここでも福の子は、番人ばんにんに、

「この井戸の中の石の下に、ヒキガエルが一ぴきいるんだよ。そいつをさがしだして、ころしなさい。そうすれば、またまえのようにおさけがいくらでもわきでてくるよ。」

と、鬼がいったとおりに話してきかせました。

 番人はおれいをいって、こんどもまた、金貨きんかをつんだ二ひきのロバをくれました。

 こうして、ふくの子はようやく、およめさんのっている家にかえりつきました。およめさんは、福の子にもういちどあえたばかりか、なにもかもがうまくいったことをきいて、心からよろこびました。

 ふくの子は、王さまのおのぞみの、おにきんかみを三本もって、王さまのまえにでました。王さまは金貨きんか背中せなかにつんだ四ひきのロバを見て、すっかり満足まんぞくして、いいました。

「さて、これで条件じょうけんはすっかりととのったわけだ。わしのむすめは、おまえのつまにしてよろしい。だがな、むこどの、このたくさんの金貨はどこで手にいれたのかね。じつにすばらしいたからものだが。」

「わたしはある川をわたりました。この金貨は、そこからとってまいりましたのです。その川の岸には、すなのかわりに、こういうものがいっぱいございます。」

と、ふくの子はこたえました。

「わしにもとってこられるかな。」

 王さまはほしくてたまらなくなって、こうたずねました。

「いくらでも、おのぞみなだけ。」

と、福の子はこたえました。

「その川にはわたもりがおりますから、そのものに川をわたしておもらいなさいませ。川むこうへまいりますと、いくつふくろがありましても、すぐいっぱいになってしまいます。」

 よくのふかい王さまは、おおいそぎででかけました。

 あの川のところまできますと、王さまは渡し守を手でまねきよせて、むこう岸へわたしてくれ、といいました。わたもりがやってきて、王さまにおのりなさい、といいました。ふたりがむこう岸へついたとたん、渡し守は王さまの手にさおをにぎらせるがはやいか、じぶんはりくにとびあがって、にげていってしまいました。

 王さまは、じぶんのおかしたつみばつとして、それからはずうっとわたもりをしなければなりませんでした。


(1)子どもが生まれたとき、大網膜だいもうまく一部いちぶがやぶれないで、そのまま子どもの頭にのこっていることがあります。むかしは、これを幸運こううんのしるしだと考えて、〈ふくかわ〉とよんだわけです。






底本:「グリム童話集(1)」偕成社文庫、偕成社

   1980(昭和55)年6月1刷

   2009(平成21)年6月49刷

※表題は底本では、「三本のきんかみをもっているおに」となっています。

入力:sogo

校正:チエコ

2021年10月27日作成

青空文庫作成ファイル:

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