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手療法一則

(二月例會席上談話)

荻野吟子




食物しよくもつことついて、すこかんじたことりますから貴婦人方あなたがた御噺おはないたしますが、いま宮本みやもとさんから、段々だん/\御噺おはなしがツて、兒護婦こもり不注意ふちういより、子供こども種々しゆ/″\ものみ、れがめに大邊たいへん危險きけんるとのことですが、わたくし田舍いなかりまする時分じぶんこれれに[#「之れに」はママ]つい實見じつけんしたことりますから、れをばまうようぞんじます、れは二さいばかりの子供こどもが、文久錢ぶんきうせんともふべきおあしんだのです、恰度てうどわたくし其節そのせつ其塲そのばりましたが、なに心得こゝろゑませんからたゞあわてるばかり、なに振舞ふるまいのあツたときですから、大勢たいぜいひとりましたが、いづれもあをくなり、つかねてまでことで、醫者いしやびますにも、はぬとふので、大層たいそうあはてました。其時そのときむらうち一人ひとり老人としよりがありまして、其塲そのばけてまいり、おあしんだとはなしきいたがついては、わたくし實驗じつけんがあるから、れをば何卒どうぞツてれ、其法そのはうまうすは、子供こども兩足りようあしとらへてさかさにつるし、かほそとけて、ひざもてせなかくとふのですさうすれば、かつての實驗じつけんよつるから、これツてれと熱心ねつしんすゝめました、折節おりからいづれも途方とほうれてりましたから、取敢とりあへずこれツて見樣みようふので、父親ちゝおや子供こども兩足りようあしとらへてちうつるし、外面そとかしてひざ脊髓せきずいきました、トコロガ、容易たやす其錢そのぜにくちから吐出はきだしました。其時そのときあつまツてツた、一どうものよろこびはくらいりましたか、商家抔せうかなどではおうおわし取扱とりあつかつてるから、醫者いしやぶもはぬとようときは、實驗上じつけんぜう隨分ずいぶんもちひて宜敷よろしほうようぞんじます。いま濱田ハマダ宮本ミヤモト兩先生りようせんせい御話おはなしついて、わたくし已徃きおうおいかんじましたること一寸ちよつと貴方所あなたがたまうげましたのです。






底本:「婦人衞生會雜誌第七號」私立大日本婦人衞生會

   1889(明治22)年6月1日出版

※「変体仮名お」「変体仮名ず」「変体仮名ぞ」「変体仮名な」「変体仮名し」は、仮名にあらためました。

※「貴婦人方」と「貴方所」、「御噺おはなし」と「御話おはなし」、「ツて」と「ツて」の混在は、底本通りです。

※「宮本」に対するルビの「みやもと」と「ミヤモト」、「錢」に対するルビの「おあし」と「おわし」と「ぜに」、「法」に対するルビの「はう」と「ほう」の混在は、底本通りです。

※表題は底本では、「○手療法てれうじ一則いつそく」となっています。

※著者名は底本では、「荻野 吟子 述」です。

入力:フクポー

校正:かな とよみ

2021年5月27日作成

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