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齋藤茂吉の死を悲しむ

吉井勇




友の死を聞きししばらく京の夜の炬燵もさむくもの言はずけり


觀潮樓歌會に寄りし友おほく世を去りたるにわが茂吉また


如月の下浣すえの童馬忌來るごとに京の寒さもうべとおもはむ


われやなほ無頼ぶらいなりしよ「赤光」のおひろの歌を愛でたるころは


淺草の觀音堂ををろがめる友の寫眞をかなしむ


うで玉子買ひたる歌をおもふとき淺草あさくさ夜空よぞら目にうかび來る


くわん左千夫さちを信綱茂吉と膝めて歌つくりしも明治の末か


長崎に陳玉ちんぎよくといふむすめゐて友と往きしもおもひでとなる


友の死を聞きて門邊にわれ乞へど遊行念佛僧ゆぎやうねぶつそういまだ來らず


二月堂の水取ちかし友の死をおもへばいとど寒さきびしく


友われの手を握りつつもの言ひし去年こぞの最後のかの日思ふも


四十年を越ゆるまじはり思ひ居れば如意嶽おろし吹きてかなしき


京都にも君の弟子ゐてその死をば宗碵そうせき茂樹しげきかなしみてゐむ






底本:「近代作家追悼文集成 第三十四巻」ゆまに書房

   1997(平成9)年1月24日発行

底本の親本:「短歌研究 第十卷第四號」日本短歌社

   1953(昭和28)年4月1日発行

初出:「短歌研究 第十卷第四號」日本短歌社

   1953(昭和28)年4月1日発行

入力:ネコステ

校正:きりんの手紙

2022年1月28日作成

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