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或る時の詩

片山敏彦




心のあらしが今去つたところだ

熱い嵐の中で、つめたい心がこゞえて

獣になつて魂の野を

走りまはつてゐた。

火にかれながら、一つの氷が

曇り日の天に向つて叫んだ。


心の嵐が今去つたところだ。

疲れた氷の火が静かにとけて

秋の曇り日の天の下に

春のやうなひかりを感じる。

やつと見つけたお母さんの乳房に

泣きじやくりながら、かじりつく赤ん坊に

私のこゝろは似てゐると思ふ。






底本:「日本の詩歌 26 近代詩集」中央公論社

   1970(昭和45)年4月15日初版発行

   1979(昭和54)年11月20日新訂版発行

入力:hitsuji

校正:染川隆俊

2022年10月26日作成

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