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ピアノ

三富朽葉




ふるへては何処いづこへかむせび入り

跡かたもないメロデイよ、

淡蒼うすあをい影をうごかす

おまへの指は絶間なくむせび入り、

しなやかな幻にとりすがる。


白い指の王国は

ほしいままな圧制を

しひたげの歌をき鳴らす、

薄明りの上に輝いて

裂けて死ぬ光りのなげき。


けぶりのやうな明るみへ、

秘密を探る指の白よ、[#「白よ、[#改行][#改行]」は底本では「白よ、[#改行]」]


四阿あづまやのにほひと色彩いろめられて、

私の心は幾度も幾度も生き死ぬ。






底本:「日本の詩歌 26 近代詩集」中央公論社

   1970(昭和45)年4月15日初版発行

   1979(昭和54)年11月20日新訂版発行

底本の親本:「三富朽葉詩集」第一書房

   1926(大正15)年10月15日発行

初出:「文章世界 第五卷第五號」博文館

   1910(明治43)年4月15日発行

※「指の白よ、」を、初出の表記にそって、あらためました。

入力:hitsuji

校正:きりんの手紙

2022年7月27日作成

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