夜
宮本百合子
青銅の扉に秘密を閉して
もだせる夜の厳さよ!
万物はかたずのみて
闇に立ち迷う奇蹟をながめ
故知らぬ暗示に胸をとどろかす
偉なるかな!
奇なるかな!
生あるものは総てかく低唱しつつ
厚き帳のかなた身じろぐ夜の精を見んと
行手すかしつつさぐり見るなり
無限の闇の広き宙には
乾坤の敗者の歎きと
勝者の鬨の声と
石棺の底より
過去を叫ぶ亡霊のうごめき
奇しき形に
其の音波を伝えつつ
闇に生れ闇に消え行く
||そが中を神秘は
ささやかなる各々の細胞となりて
うす青く輝きつつ飛び違う
||
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