昨日、気分が悪くてとかさなかったので今日は泣く様な思いをする。
三度目位までは櫛一杯に抜毛がついて来る。
袖屏風の陰で抜毛のついた櫛を握ってヨロヨロと立ちあがる
只さえ秋毛は抜ける
いくら、ぞんざいにあつかって居るからってやっぱり惜しい気がする。
惜しいと思う気持が段々妙に淋しい心になって来る。
此頃は只クルクルとまるめて真黒なピンでとめて居るばかりだ。
結ったって仕様のない様な気がする。
若い年頃の人が
ピッタリと
毎朝の抜毛と、海と同じ様な碧色の黒みがかった様な色をした白眼の中にポッカリと
白眼が
時々、此の青っぽい白眼も奇麗に見える事があるけれ共、此頃の様なまとまらない様子をして居ると、眼ばっかりが生きて居る様な||何だか
弟が「どら猫」の眼の様だと笑った。
ほんとうに此頃は「どら猫」の生活をして居る。
眠りたいだけ眠り、気の向いた時食べ、そして何をするでもなくノソノソ家中歩き廻って居る。
それでもまあ、少しばかり読んだり書いたりする位が人間らしい。
何か読むか書くかしなければ居られない私がその仕事を取りあげられて仕舞うと「どら猫」より馬鹿になって仕舞う。
ボンヤリと空をながめて居たり、うなだれて眼ばかり上眼を
変に陰気になってろくに笑いもしなくなる。
呑助が酒を取り上げられたのと同じになるのをつい此間から草花でまぎらす事を気がついた。
五六本ある西洋葵の世話だのコスモスとダーリアの花を数えたりして居る。
土の少なくなったのに手を泥まびれにして畑の土を足したり枯葉をむしったりした。
けれ共今はもうあき掛って居る。
あんまり
女中に「抜毛を竹の根元に埋めると倍になって生えるそうだ」と
女中はハイハイとうけ合って居たっけがそのまんま忘れて午後になって見ると大根の
「オヤオヤヘエー」って云いたい気になった。
別に
其のまんまに仕て置く。
こんな事をひどく気にして居たら女中なんかと一緒に居られるもんじゃあない。
幾度も幾度も女中が変って知った事だけれ共、私が手紙を出しとくれと云って
其の家の娘がたのんだ仕事の
又こないだまで居た、話しにもならない様な女中の事を思い出す。
顔がかなりで
彼の女も一度だか私の髪を埋めた事が有った事を思い出すとあんなものの手で埋められたのかと思うと髪の根元がムズムズする様だ。いやらしい。
一体秋になるといつもなら気が落ついて一年中一番冷静な頭になれる時なんだけれ共今年はそうなれない。
大変な損だ。
秋から冬の間に落ついて私の頭は其の他の時よりも余計に種々の事を収獲するんだけれ共今年は少くとも冬になるまで別にこれぞと云う事もしないで居なければならない。
抜毛を見ながらも、変な青っぽい眼を見ながらも、徒に立って行く秋の貴さと健康の有難味を思う。
健康で居て暇無しに仕事をして行けるのが何より幸福だと、仕事をしたくて出来ない今つくづく思う。
わかりきった事の様だけれ共、ほんとうに心からつくづくと思うのは自分がそれをする事の出来ない様な境遇になってからである。
「抜毛」のないものには、毛の抜けない気持よさが分らない||病気を生れて一度も仕た事のないものは達者で生きて居る有