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秋の夜

宮本百合子




月そそぐいずの夜

揺れ揺れて流れ行く光りの中に

音もなく一人もだし立てば

萌え出でし思いのかいわれ葉

瑞木となりて空に冲る。


乾坤を照し尽す無量光

埴の星さえ輝き初め

我踏む土は尊や白埴

木ぐれに潜む物の隈なく

黄朽ち葉を装いなすは

夜光の玉か神のみすまるか

奇しき光りよ。


常珍らなるかかる夜は

※(「火+玄」、第3水準1-87-39)燿郷の十二宮

眼くるめく月の宮

瑠璃の階 八尋どの

玉のわたどの踏みならし

打ち連れ舞わん桂乙女

うまし眉高く やさめの輝き

長袖花をあざむけば

天馳つかい喜び誦し

山祇もみずとりだまも

ともに奏でん玉の緒琴 箏の笛


妙なりや秋の夜

心ゆく今の一とき

久遠劫なる月の栄え

讚えんに言の葉も得ず

いずのみお我辺かこむ。






底本:「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社


   1981(昭和56)年12月25日初版

   1986(昭和61)年3月20日第5刷

初出:「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社

   1981(昭和56)年12月25日初版

入力:柴田卓治

校正:土屋隆

2009年1月29日作成

青空文庫作成ファイル:

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